HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.58 「清経」

ドラマチック!OH!能

阿弥による修羅物の中でも代表的な一曲。世阿弥は自著の中で、修羅物の作り方を説いていますが、「清経」はこのルールから外れています。修羅物は一般的に、戦のうちに一生を送り、死後は修羅道に堕ちる武将を描くことが多いですが、この物語では負け戦の中で現世に絶望した清経は、信仰による救いを求め入水による死を選びます。そして最期に唱えた念仏により救われる身となるという結末を迎えます。また、前シテが後シテの化身となる夢幻能とは異なる作風となっています。


【物語】源平合戦のさなか平家一門は都落ちした後、九州へ落ち延びていきました。都で暮らす平清経の妻のもとへ、家臣の淡津三郎(あわづのさぶろう)が九州より訪ねてきます。三郎は、清経が豊前国柳が浦〔北九州市門司区の海岸、山口県彦島の対岸〕の沖合で入水したと妻に伝え、形見の品に清経の遺髪を手渡します。妻は嘆き悲しみ、必ず帰るとの約束を果たさなかった夫を恨みます。そして、悲しみが増すからと遺髪を宇佐八幡宮〔現大分県北部の宇佐市〕に送り返してしまいます。せめて夢で会えたらと願う妻の夢枕に、清経の霊が鎧姿で現れます。お互い再会を喜びながらも、妻は寿命を全うせず再会の約束も果たさなかった夫を咎め、夫は遺髪を送り返してしまった妻を非難します。そしてお互いを恨みを語っては涙を流します。やがて清経の霊は、自ら体験した平家の戦いと逃避行、敵に怯える日々を語ります。自分の運命を悟った清経は、極楽往生を願いながらと入水したことを示し、さらに戦いで死ねば堕ちいたであろう修羅道の惨状を現します。やがて最後に、念仏によって救われ、静かに姿を消してゆきました。