HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.56「藤戸」
「藤戸」は雑能と呼ばれる4番目物の中でも、冥界へ行った霊魂がこの世に未練を残しているという様子を題材にした、執心物というカテゴリーに属します。夢幻的な舞台を演出する能の中にあって、劇的要素の強い内容になっています。舞台は現在の岡山県倉敷市藤戸。
【物語】源平合戦の時、備前国(岡山県)藤戸の合戦で手柄を立てた佐々木盛綱は、恩賞として藤戸に新領主として着任します。まずは領民の声を聞こうと、訴えのある者は申し出るように従者に触れさせます。すると、ひとりの老婆がやって来て、罪もない我が子が盛綱に殺された恨みを述べるのでした。盛綱は一度は否定しますが、老婆の激しい追及と嘆きに、隠し切れず告白します。去年3月の藤戸の合戦の折、手柄を立てようと土地の漁師に浅瀬を聞き出しましたが、他の者にも同じように教えられることを恐れてその男を殺してしまったのです。その時の様子を老婆に語り、その男を沈めた場所を話します。老婆は悲しみを新たに半狂乱となり、自分も殺してくれと詰め寄ります。盛綱は自分の過ちを悔い、老婆を慰め、下人に命じて自宅まで送らせました。
そして盛綱は早速漁師を弔うために法要を行い、自らも読経します。するとそこに漁師の亡霊が現れ、盛綱が浅瀬を馬で押し渡り先陣の功を立てた様子、そして自分は口封じの為に刺し殺された様子を再現します。そして盛綱に近寄って杖を振り上げますが、盛綱の読経の回向により成仏していくのでした。