HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.55「角田川」

ドラマチック!OH!能

「角田川」に登場する母のような「女物狂」を主人公とする作品を、「狂女物」と呼びます。通常「狂女物」は子や夫などと引き離された女が狂気に陥るが、相手に再会し正気に戻るというハッピーエンドがほとんどです。しかし「角田川(隅田川)」は、子は死んでおり幻とまみえるだけの切ない物語となっています。


【物語】春の夕暮れ、武蔵の国角田川(隅田川)の渡し場に女が現れます。女は都の北白河に住んでいたが、息子が人買いにさらわれ、心が狂乱し子を探しにこの地まで来たのです。船頭が狂女に、舟に乗りたければ面白く狂って見せろと言い、女は『伊勢物語』を用い、自分と在原業平とを巧みに引き比べます。そして船頭を感心させ、舟に乗り込みます。川を渡しながら船頭は、一年前の今日、対岸で亡くなった梅若丸という子の話をし、一周忌の供養に加わってくれと頼みます。舟が対岸に着き、みな下船するなか狂女は降りず泣いています。訳を尋ねると、梅若丸はわが子のことだという。船頭は狂女に同情し、梅若丸の塚に案内し大念仏で一緒に弔うよう勧めます。狂女が鉦鼓(しょうこ)を鳴らし念仏を唱え弔っていると、塚の内から梅若丸の亡霊が現れます。女が抱きしめようと近寄ると、幻は腕をすり抜け母の悲しみは一層増すばかり。やがて空が白み始めると亡霊の姿も消え、母はただ、梅若丸の塚で涙にむせぶのでした。