HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.53「田村」
「田村」は武将の霊がシテとなる修羅物(二番目物)で坂上田村麿を主人公とします。修羅物は、多くは平家物語を題材とし戦いに負けた側がシテとなる負修羅(まけしゅら)であるのに対し、この「田村」は勝ち戦の武将を主人公にした勝修羅(かちしゅら)で、「箙」「八島/屋島」と合わせ、勝修羅三番とも呼ばれます。前半は田村麿の化身である少年を主人公に、舞台である清水寺の春が美しく描かれます。対して後半は武者姿の田村麿が登場、自身の一代戦記を語り、当時の武勇を現します。この前後半の対照的な描写が見どころとなります。
【物語】春、東国の旅僧が清水寺を訪れると、箒を持った不思議な少年と出会います。少年は地主権現に仕える者で、清水寺の来歴を尋ねる僧に坂上田村麿がこの寺を建立した由来を語りました。そして僧らに付近の名所を伝え、月明かりに映える満開の桜の木の下で春の宵を共に楽しみます。夜となった頃、少年は景色を讃えながら舞い「私の正体を知りたくば、わが行く先を見よ」と告げると、田村麿ゆかりの田村堂という建物に入っていきました。寺の門前にいる者が残された僧らに、少年は田村麿の化身だろうと述べ回向を勧めます。その夜僧らが経を読んでいると、田村麿の霊が在りし日の武者姿で現れます。田村麿はかつて、帝より東国の反乱の平定を命じられ、軍勢を率いて清水寺の本尊である観音に参り願をかけたことを語ります。その後、事を成し遂げた武勇を語り、これも観音の霊験によるものだと述べて合掌し、姿を消しました。