HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.52「井筒」

ドラマチック!OH!能

世阿弥自身が「上花也」と自賛するほどの自信作であり、夢幻能の傑作。伊勢物語の第二十三段「筒井筒」を元に構成されています。前場では女と夫との恋が懐かしく回想され、後場では寂しさのあまりに夫の衣装をまとい舞を舞います。ここではこの夫婦を、在原業平と紀有常の娘と解釈しています。「井筒」とは井戸の周りの枠のことで、女が子供の頃に幼馴染の夫と遊んだ思い出の井戸を指します。舞台上ではその井戸の作り物がすすきを携えて、秋の寂寥感を醸し出しています。


Ⓒ渡辺真也

【物語】ある秋の日、旅の僧が大和の国の在原寺に立ち寄りました。そこは昔、在原業平とその妻が住んでいた場所ですが、今は廃寺となって名残の井筒にもすすきがのびています。僧が在原業平とその妻の冥福を祈っていると、仏にたむける花水を持った里の女が現れます。女は業平の妻であることを隠しながらも、業平と過ごした日々を思い出の井筒を見つめながら語ります。幼い頃、井戸で背比べをした2人は、成人して疎遠になっていましたが歌を詠み交わして結ばれました。女は自分が業平の妻であることを明かし、去ってゆきます。そこに里の男が現れ、業平とその妻の話を語ります。その晩、僧が床につくと、夢の中に井筒の女が現れます。夢の中で女は、業平の形見の衣装を身に付けて舞い、「筒井筒井筒にかけしまろがたけ生(お)いにけらしな…」と詠み、のぞき込んだ井筒の水に映る自らの姿に、業平の面影を見るのです。そして夜が明ける頃、女は消え、僧も鐘の音とともに夢から覚めるのでした。