HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.50「羽衣 床几之物着」
話でもおなじみの羽衣伝説をもとにした能です。昔話では、天女は羽衣を隠されてしまい人間の妻になるのですが、能での漁師白竜は人が好く、羽衣を天女に返し代わりに舞を見せてもらいます。そしてこの天女の舞が一番の見所です。「床几之物着(しょうぎのものぎ)」とは、その羽衣の身に付け方を指し、床几と呼ばれる座具に腰掛けた状態で羽衣を纏います。穏やかな春の海に美しい天女の舞い、そして遠くには富士山。幸せな気持ちにさせてくれる曲です。
【物語】穏やかな春の朝、三保の松原の漁師である白竜(はくりょう)は仲間と釣りに出かけます。すると、松の枝に掛かった美しい衣を見つけ、それを持ち帰ろうとします。そこに天女が現れて白竜に声をかけ、その羽衣を返して欲しいと頼みます。白竜はそれを聞き入れず返そうとしません。しかし「羽衣がないと天に帰れない。」と悲しむ天女を見て、舞を見せてくれることを条件に羽衣を返すと言います。喜ぶ天女。しかし白竜は「羽衣を返したら舞を舞わずに天に帰ってしまうのではないか」と疑います。それに天女は「いえ、疑いというものは人間界にあり、天には偽りなどありません」と答えます。その言葉に感動した白竜は羽衣を天女に返します。羽衣を着た天女は、月宮の様子を表す舞いなどを見せ、さらには春の三保の松原を賛美しながら舞い続け、やがて彼方の富士山へ舞い上がり、霞にまぎれて消えていきました。