HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.45「杜若」
「伊勢物語」の中でも特に名高い“東下り”の段を題材にしています。舞台は三河国 八橋(現在の愛知県知立市八橋町)。八橋町は今も杜若の名所で、杜若は知立市の花でもあります。シテ[杜若の精]とワキ[旅僧]のみが登場する、一場で展開する簡潔な曲です。在原業平が「かきつばた」の五文字を詠み込んだ和歌から、大和言葉の美しさや杜若が醸し出す初夏の季節感、きらびやかな装束と幽玄な謡いと舞。見どころの多い夢幻能です。
【物語】旅の僧が三河国に着き、沢辺に咲く杜若を愛でていました。そこへ女が現れ、ここはかつて、在原業平が歌に詠んだ杜若の名所の八橋(やつはし)だと伝えます。そして「からころもきつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞおもふ」と、業平が「かきつばた」の五文字を句の上に置いて詠んだ和歌を披露します。やがて日も暮れ、女は僧に一夜の宿を貸し自分の庵に案内します。女はそこで、先ほどの和歌に詠まれた高子(たかこ)の后の唐衣に、歌を詠んだ業平の透額(すきびたい)[額際に透かし模様の入ったもの]の冠と、二人の形見を纏った姿で現れます。
そして自分は杜若の精であると明かします。杜若の精は、業平が菩薩の化身であり、自分は業平の歌に詠まれたことで救われる身となったことを明かします。そして僧は、杜若の精が艶やかに舞いながら語る「伊勢物語」での業平の恋物語や歌の世界に引き込まれてゆきます。やがて杜若の精は悟りの境地を得たとして、夜明けと共に姿を消してゆきました。