HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.41「翁」
「能にして能にあらず」といわれる「翁」。この曲はどのカテゴリーにも属さず、戯曲的な構成もありません。いわば神聖な儀式であり、演者は神となって天下泰平、国土安穏を祈祷する舞を舞います。能が大成される室町時代以前の鎌倉時代には成立していたもので、本来は一日の演能の冒頭に必ず上演されるべきものとされ、大切に伝えられてきたものです。いつも静かな緊張感の漂う能の舞台ですが、「翁」はまた趣を異にし、神聖な儀式独特の雰囲気となります。
【解説】「翁」の源流は非常に古く謎に包まれています。世阿弥の風姿花伝には、「式三番」と呼ばれる3つの猿楽が起源と記されています。式三番は、父尉(ちちのじょう)、翁、三番猿楽(さんばさるがく)という、それぞれ老いた神が寿福を祈願して舞う三番の曲を指し、三番一組で演じられました。後に父尉は演じられなくなり、現在は千歳(せんざい)・翁・三番三(三番叟)の順に舞うこととなっています。「翁」を勤める役者は上演前に一定期間、精進潔斎の生活を送り、心身を整えて舞台に臨みます。上演当日は、舞台上部に〆縄を張って場を清め、鏡の間に祭壇を設け、使用面を納めた面箱、神酒(みき)などを供えて儀式を行います。 【舞台の流れ】千歳、翁、三番叟の三人の役者が順に、祝祷の歌舞を舞います。出演者全員が橋掛リから登場し、翁太夫は正面に向かって深々と礼をし舞台右奥へ着座し、小鼓と笛の囃子に乗せて「とうとうたらり」と謡い出します。千歳の露払い(先導し道を拓く役)の舞ののち、白き翁の神となった翁太夫が、天下泰平祈願の舞を舞います。その後、翁は橋掛りより退出します。これを翁帰り(おきながえり)と呼びます。次に三番叟が五穀豊穣を祈念した二つの舞を奉じます。まずは直面(ひためん面をつけない)で「揉ノ段」を躍動的に、さらに黒式尉の面をつけ、面箱と問答を行った後、鈴を渡され「鈴ノ段」を舞います。