HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.40「百万」
「百万」は、子別れの狂女物の代表曲で、頻繁に上演されています。観阿弥原作の「嵯峨物狂」という曲を世阿弥が改作したものです。曲名でもある主人公の百万は、曲舞(くせまい)の舞い手として実在したという伝承があります。母と子の再会がテーマになってはいますが、親子が再会できることは物語の冒頭部分で分かってしまいますので、作品のねらいは、百万という女芸人に、念仏の音頭をとらせ、子を尋ねる狂態を見せ、狂うに至った物語を曲舞で表して、芸尽くしの世界を見せることにあります。
【物語】ある春のこと。吉野の男(または僧)が奈良の西大寺近くで男の子を拾い、その子を連れて京都・嵯峨野の清凉寺・釈迦堂で催される大念仏に参加します。そこへ百万という狂女が現れ、念仏の唱え方がなっていないと言い、見本を示すように音頭を取って念仏を唱え始めました。そのうちに百万は、子どもと生き別れて正気を失ったことを語りつつ狂乱し、子どもに逢わせてくださいと、仏に祈ります。子どもはしばらくその様子を眺めていましたが、自分の母親だと気づき、同行の男(僧)に、それとなく尋ねるよう頼みます。男(僧)は、百万に出身地や正気を失った理由について問いただします。すると百万は、自分は奈良の者であるが、夫とは死別し、子どもとは西大寺で生き別れたことを語ります。そして人前で自分の狂った姿を見せ、恥をさらすような真似をするのも子どもと逢うためだと言い、子供と再会するために諸国を巡った遍歴を歌と舞で表します。悲痛なその姿に、男(僧)は心を動かされ、男の子を百万に逢わせます。百万と男の子は再会を喜び、親子は仏法の功徳に感謝し、一緒に連れ立って奈良へ帰ってゆきました。