HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.39「通小町雨夜之伝」
現行曲のなかでも、特に古作の曲のひとつです。短い曲ながら、前半の小野小町と深草の少将との掛け合いや、後半は百夜通いの再現での生き生きした型や所作など見応えがあります。百夜通いの伝説では百夜目に男が来られなくなりますが、能では仏縁を得て終わります。また男の執心を扱う曲にはやりきれない陰鬱なものもありますが、この曲の主人公、深草の少将には、貴族的な育ちのよさが垣間見え、陰気さばかりではない風情があります。これがかえって哀れを誘うともいえます。
【物語】京都・八瀬(やせ)の山里で一夏の修行[夏安居(げあんご)。九十日間籠もる座禅行]を送る僧のもとに、木の実や薪を毎日届ける女がいました。今日もいつものように女が来て木の実づくしの物語などをしますが、僧が問答の末に名を尋ねると、女は「小野とはいはじ薄(すすき)生ひけり」と言い、絶世の美女、才媛であった小野小町(おののこまち)の化身であることをほのめかし、姿を消しました。 僧は小野小町の幽霊だろうと察し、市原野に出掛け小町を弔っていると、薄(すすき)の中から小町の亡霊が現れ、僧からの受戒を望みます。そこに、背後から近づく男の影がありました。それは小町に想いを寄せた深草の少将の怨霊でした。執心に囚われた少将は、小町の着物の袂にすがり共に愛欲の地獄に留まろうと、受戒を妨げようとします。僧はふたりに、百夜(ももよ)通いの様子を語るよう促します。少将からの求愛に、小町は、百夜通って、牛車の台で夜を過ごせば恋を受け入れると無理難題を出します。少将はどんな闇夜も雨、雪の夜も休まず、律儀に歩いて小町のもとへ通いました。そのありさまを再現します。百夜目。満願成就の間際、まさに契りの盃を交わす時、少将は飲酒が仏の戒めであったことを悟り、両人ともに仏縁を得て、救われるのでした。