HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.37「西行桜」
大勢の花見客と一人過ごす西行、昼間の賑わいと夜の静けさ、若と老、動と静など対応する要素が数多く見える作品です。クセでは、都の桜の華麗な美しさが次々と視点が移り変わるようにピックアップされていき、一方、西行庵の老木の桜の閑寂とした美しさは、静かに舞われる序ノ舞で表現されます。老桜の精が現れたのは西行の歌への反論のためですが、歌の誤解が解けた後は、精と西行は過ぎ行く春を惜しむ心を共有し、一体化したかのような趣さえあります。
【物語】京都西山の西行の庵室。春になると、美しい桜が咲き、多くの人々が花見に訪れます。しかし、今年、西行は思うところがあって、花見を禁止しました。 一人で桜を愛でていると、例年通り多くの人々がやってきました。桜を愛でていた西行は、遥々やってきた人を追い返す訳にもいかず、招き入れたのでした。西行は、「花見んと群れつつ人の来るのみぞあたら桜のとがにはありける(美しさゆえに人をひきつけるのが桜の罪なところだ)」という歌を詠み、夜すがら桜を眺めようと、木陰に休んでいると、夢に老桜の精が現れ、「桜の咎とはなんだ」と聞く。「桜はただ咲くだけのもので、咎などあるわけがない。」と言い、「煩わしいと思うのも人の心だ」と西行に苦言を呈します。だがいっぽうで老桜の精は、西行に巡り逢えたことを喜び、都の桜の名所を西行に教え、舞を舞うのでした。そうこうしているうちに夜が明けます。名残惜しむ老桜の精も消え、西行の夢も覚めて、ただ老木の桜がひっそりと息づいているのでした。