HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.36「殺生石 女体」
「九尾の狐」をご存知でしょうか?玉藻の前に化けた狐の精霊です。インドや中国でも絶世の美女となり時の王を惑わし、世の平安を乱す存在とされました。そんなスケールの大きい伝説をもとにした、変化に富んだ能です。前半は那須野の殺生石の近くという異様な情景のなかで、女と高僧との問答が展開されます。動きは少ないのですが、妖しい雰囲気に満ちています。後半は打って変わって、狐の精霊が自らの物語をアクション満載で再現する、大捕り物が演じられます。
【物語】玄翁という高僧が下野国那須野の原(今の栃木県那須郡那須町)を通りかかります。ある石の周囲を飛ぶ鳥が落ちるのを見て玄翁が不審に思っていると、女が現れ、その石は殺生石といって近づく生き物を殺してしまうから近寄るなと教えます。女は殺生石の由来を語ります。「昔、鳥羽の院の時代に、玉藻の前という宮廷女官がいた。玉藻の前は鳥羽の院の寵愛を受けたが、狐の化け物であることを陰陽師の安倍泰成に見破られ、正体を現して那須野の原まで逃げてきたところを討たれてしまう。その魂が巨石に取り憑き、殺生石となった」と。語り終えると、女は玉藻の前の亡霊であることを知らせて消えます。 玄翁は、石魂を仏道に導いてやろうと法事を執り行います。すると石が割れて、狐の霊が姿を現します。狐の霊は、「天竺(インド)・唐(中国)・日本と、世を乱してきたが、陰陽師に調伏され那須野の原に逃げてきたところを、狩人たちに追われ、射伏せられてしまった。以来、殺生石となって人を殺して過ごしてきた」と、これまでを振り返ります。そして今引導を渡されたからには、もう悪事はいたしませんと約束し、狐の霊は消えてゆきます。