HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.34「蝉丸」
皇子・皇女として生まれながら、厳しい境遇に身を置く蝉丸と逆髪。そんな悲運のふたりが逢坂山で廻り合い、しみじみとお互いの身の上を語り合い、別れ行くという話。表向きに変化に富んだ物語ではありませんが、人物・場面・テーマ・展開など、よく練りこまれた丁寧な話です。出家を強いられた蝉丸が古歌を引きながら、馴染みのない蓑・笠・杖を手にする場面、琵琶を抱いて伏せ転ぶ蝉丸、逆髪が逢坂山に向かう道中や、水鏡に己の浅ましい姿を映して驚く場面、逢坂山の藁屋での再会、そして別れ。私達の心にヒタヒタと迫りくる秀作です。
【物語】醍醐天皇〈延喜帝〉(885年~930年)の第四皇子、蝉丸の宮は、生まれつき盲目でした。あるとき廷臣の清貫(きよつら)は、蝉丸を逢坂山に捨てよ、という勅命のもと蝉丸を逢坂山に連れて行きます。嘆く清貫に、蝉丸は後世を考えての帝の配慮だと論します。清貫はその場で蝉丸の髪を剃って出家の身とし、蓑・笠・杖を渡し別れます。蝉丸は、琵琶を胸に抱いて涙のうちに伏し転ぶのでした。蝉丸の様子を見にきた博雅の三位は、あまりに痛々しいことから、雨露をしのげるように藁屋をしつらえて、蝉丸を招き入れます。一方、醍醐天皇の第三の御子の逆髪は、皇女に生まれながら逆さまに生い立つ髪を持ち、狂人となって辺地をさまよう身となっていました。都を出て逢坂山に着いた逆髪は、藁屋よりもれ聞こえる琵琶の音を耳に止め、弟の蝉丸がいるのに気づき、声をかけます。ふたりは互いに手と手を取り、わびしい境遇を語り合うのでした。しかし、いつまでもそうしてはいられず、逆髪は暇を告げ、ふたりは涙ながらに、お互いを思いやりながら、別れます。