HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.33「盛久」

ドラマチック!OH!能

盛久が読誦する『観音経』というお経は、観音菩薩への祈りにより様々な災厄から逃れることができると説かれています。本作では、処刑の瞬間に起こった奇蹟をひとつの見せ場とすることで、死に臨んだ盛久の心理と、そこから一転して奇蹟を目の当たりにした後の彼の心理を、巧みに描き出すことに成功しています。自分が助かったのは観音の力によるものだと知り感涙に咽ぶ盛久のように、人智を越えた力を目の当たりにした人間の心理が、この作品では細やかに描かれています。


【物語】源平の合戦後、囚われの身となった平家の侍盛久(シテ)は、源頼朝の家臣 土屋三郎(ワキ)に護送され、京から鎌倉へ下ることとなりました。長年清水寺の観音を信仰してきた盛久は、最期の望みとして清水寺参拝を土屋に願い、これを果たすと、東海道を下って鎌倉に至ります。処刑は明日と知らされ、盛久は『観音経』を読誦して観音に最後の祈りを捧げます。明朝、彼は処刑場に赴きますが、処刑執行人が太刀を振り下ろそうとした瞬間に太刀は折れ、盛久は助かるのです。すぐさま源頼朝に召された盛久は、夜明け前に不思議な夢を見たことを明かします。実は、処刑に先立ち少しまどろんでいたところ、観音から「汝に代わるべし」とのお告げがあったのでした。すると頼朝も「自分も同じ夢を見た」と明かし、盛久が助かったのは観音が起こした奇蹟によるものであったと判明します。涙を流す盛久。頼朝は盛久のために酒宴を催し、めでたい席に相応しい舞を舞うよう所望します。盛久は颯爽と舞を舞ってみせ、天下泰平を言祝ぐのでした。