HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.31 「鉄輪」

ドラマチック!OH!能

「鉄輪(かなわ)」とは五徳(ごとく)のことで、輪に三本足のついた鉄製の道具です。前場でシテ(主人公)はこの鉄輪を逆さに(三本足が上)かぶり、その三本足に蝋燭をつけ火を灯します。さらに赤い着物を着、顔を赤く塗って怒りの心を持てば、たちまち鬼となるだろう、という神託を受けるのです。後場では、陰陽師・安倍晴明が登場。女の恨みと呪いを祈祷ではね返し鬼女は撃退されますが、いつまた現れるやもしれぬ様相。捨てられた女の凄まじい恨み。それを緩急鋭い謡や囃子とともに味わいます。


【物語】夫に捨てられた都の女が毎夜貴船明神(京都市左京区鞍馬貴船町)に丑の刻詣でをしていると、ある夜、貴船神社の社人から神託を告げられます。それは、全身を真っ赤に彩り、頭に鉄輪を載せてその三本足に火を灯せば鬼となれるというものでした。女は自分を捨てて後妻を娶った夫に報いを受けさせるため、幾晩も貴船神社に詣でていたのです。社人は女とやり取りするうちに怖くなり、逃げ出してしまいます。そして女が神託通りにしようとすると、様子は変わり、髪が逆立ち雷鳴が轟きます。雷雨のなか、女は恨みを思い知らせてやると言い捨て、駆け去りました。一方、女の元夫は下京辺りに住んでいました。最近夢見が悪いので、陰陽師安倍晴明を訪ねます。晴明は、男が今夜にも前妻の呪いによって絶命すると見立てます。晴明は夫と新妻の人形を作り、呪いを人形に転じ換えようと祈祷をします。そこへ脚に火を灯した鉄輪を戴き、鬼となった前妻が現れます。鬼女は捨てられた恨みを述べ、後妻の形代の髪を打ち据え、男の形代に襲いかかりますが、神力に退けられ、時機を待つと言って姿を消すのでした。