「舎利」は五番目物（切能）。五番目物は人間以外の鬼畜、天狗、ご神体などをシテ（主役）とするものが多い演目です。足疾鬼と韋駄天が舞台を所狭しと動き回る、非常に派手な能です。もうひとつの見どころは、前半の仏法東漸（仏教がインドで起こってから日本にまで伝来した歴史）を語る場面。ブッダと舎利に対する敬意と情愛を繰り返し物語る謡（「今はさみしくすさまじき」など）もあり、聞きごたえのある場面です。

【物語】出雲国の僧が京都に寺詣でを思い立ち、牙舎利（ブッダの歯）で有名な泉涌寺を訪ねました。僧が舎利を拝観していると、いつの間にか寺の近くの者という男が一緒に舎利を拝んでいます。男は、仏法東漸を語り、仏舎利の尊さを讃えていました。すると突然空が曇り、稲妻が輝いたかと思うと、男の顔つきが変わり、自分は実は、かつてブッダの死直後に舎利を奪った足疾鬼（足の速い鬼）の執心であると名乗ると、舎利を奪い、天井を蹴破って飛び立ってしまいました。ものすごい物音に驚いて様子を見に来た寺男。お堂が荒らされた様子に僧を責めますが、事情を説明され、かつて舎利が奪われた際には足の速い韋駄天という神様が舎利を取り戻したという話をします。そこで今回も泉涌寺守護の韋駄天に祈ることになります。奪った舎利を懐に持って、空を逃げる足疾鬼。ふと気づくと、後ろから韋駄天が追いかけてきて、舎利を返すよう迫ります。足疾鬼は舎利を抱えたまま、仏教世界の中心にある須弥山という山を駆け上がって逃げますが、途中で捕まり一番下まで突き落とされてしまいます。ついには、韋駄天に足で踏まれて責められるので、泣く泣く舎利を差し出します。力尽きた足疾鬼は、呆然と起き上がり逃げ去ってしまうのでした。