HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.19「俊寛(しゅんかん)」

ドラマチック!OH!能

『平家物語』に描かれた俊寛の悲劇を舞台化した能で、四番目物(雑能・雑物)に属します。流刑の地、鬼界島は今の鹿児島県の南方洋上に位置する硫黄島といわれますが、第2次世界大戦の激戦地の「硫黄島」とは異なります。シテは「俊寛」という、この能限りの特別な面をつけます。


※能「俊寛」 Ⓒ工房 円

【物語】平家全盛の平安末期。法勝寺の僧都の俊寛は平家打倒の陰謀を企てた罪により、藤原成経、平康頼とともに、薩摩の鬼界島に流されます。しばらくして都では、清盛の娘で高倉天皇の后となった中宮徳子の安産祈願のため、大赦が行われます。鬼界島の流人も一部赦されることとなり、使者が島へ向かいました。成経と康頼は信仰心があつく、島内を熊野三社に見立てて、祈りを捧げて巡っていました。ある日、島巡りから戻るふたりを出迎えた俊寛は、谷川の水を菊の酒と名付けてふたりに振舞い、都を懐かしむ宴に興じます。ちょうどそこに清盛の使いが来て、大赦の朗報をもたらします。ところが赦免状には、俊寛の名前だけがなかったのです。驚きと絶望の淵に沈む俊寛に、慰めの言葉もありません。やがて赦免されたふたりを乗せて舟は島を離れます。俊寛は、舟に乗せよとすがりつくのですが、無情にも打ち捨てられ、渚にうずくまるのでした。泣き喚く俊寛に同志たちは「都へ帰れる日は来る。心しっかりと」と声をかけますが、やがてその声も遠ざかり船影も消えてしまいます。