HOME > 土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」 > Vol.11 和菓子処 桃太郎「いちご餅」 

土岐麻子「もちもち道中膝栗毛」

箱を開けると、小粒でふぞろいなお餅がずらりと整列している。
白いお餅のところどころから、苺のピンク色が透けて見える。これは求肥がダイレクトに苺を包んでいるゆえのシースルー現象だ。そう、「いちご餅」にはあんこもクリームも入っていない。
かつて苺大福が登場したとき、とてもびっくりしたことを覚えている。果物のジューシーさと大福のねっとりした食感があんなにもマッチするだなんて、誰が想像しただろうか。
最近ではみかん、マスカットなど、いろいろな果実を白あんとともに包んだフルーツ大福が流行している。はじけるようなフルーツの風味を、穏やかなあんこの甘さが受け止める…フルーツが自由なおてんば姫(or王子)ならば、あんこは作法に厳しくも心優しい教育係のばあや(orじいや)、そのでこぼこコンビを求肥というナレーションが丸くおさめる…と、一口のなかにストーリーを感じながら、いつも感動してしまう。
さてこの桃太郎の「いちご餅」は、ばあやが不在。だ、大丈夫?!と、心配しながらも爪楊枝を刺して一口で食べてみると、苺大福とは全く違う、別ものだった。あんこがあるかないかだけでこんなにも変わるものとは。
ある意味、苺そのものより苺らしさがフィーチャーされていて、苺ミルクと並ぶ新しい「苺の美味しい食べ方」のひとつといってもいいのではないか、なんてことを思った。果物特有の青臭さ(好きだけど)や刺激的なすっぱさを求肥が隠しながらも、そのみずみずしさや華やかな味わいがダイレクトに堪能できるからだ。きっと、求肥の絶妙な甘さや分量がそうさせるのだろう。
ばあやが居ぬ間の苺のひとり舞台は、ナレーションの巧さが主人公の繊細な魅力を引き立てたのであった…。
横浜市にあるこのお店では、季節の果実餅としてほかに梅実餅、さくらんぼ餅、ぶどう餅などがあるとのこと。賞味期限は当日中で、取り寄せは出来ない。でも私ははるばる買いに行くつもりでいる。そうまでしても食べたくなる、そして誰かにあげたくなる、特別なお餅だ。