HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第八十三回「欲は破滅のもと」

文・イラスト/辻和子
欲は破滅のもと
賢い悪人は狼狽はしないもの。悪事の証拠を突きつけられても動じません。小悪党ほど目先の欲に目がくらみ、行き当たりばったりで詰めが甘いと言えます。
「盲長屋梅加賀鳶」は、盲目を装う按摩・道玄が主人公。偶然出会った百姓・太次右衛門を金目当てに殺してしまいます。その直後、道玄の落とした煙草入れを拾った鳶の松蔵。後日、道玄のゆすりの現場に立ち会った松蔵が、煙草入れに入っていた道玄の名入りの質札を証拠に、過日の道玄の悪事を暴くという内容です。
道玄の女房・おせつには、お朝という14歳の姪がおり、質店・伊勢屋に奉公していました。道玄と愛人のお兼は、お朝を遊廓に売ろうと企んでいましたが、お朝が伊勢屋の主人にもてあそばれたと言いがかりをつけて、慰謝料をせしめようと思いつきます。偽造したお朝の書き置きを証拠に伊勢屋をゆすりますが、松蔵に筆跡が違うと見破られます。二重の悪事を暴かれ、十両で松蔵に追い払われる道玄。お世辞を言いつつ立ち去りますが、それで罪を逃れられるはずもありません。
実は殺された太次右衛門は、おせつの兄でした。道玄は殺しで血のついた自分の着物を長屋の軒下に隠していましたが、犬が引っぱり出した事から、ついに足がつきます。
盲人でないにもかかわらず、按摩ならではの優遇制度も利用して様々な悪事を重ねてきた道玄ですが、欲で目を塞がれたあげく、結局は身を滅ぼしたのです。
