HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第八十一回「最期にわかる愛の正体」

世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

最期にわかる愛の正体

愛情がなくなったとは認めたくない。でもしがみつこうとするほど、相手は冷めていくー。男女の愛の形は様々ですが、もしかすると、その愛は最初から本物ではなかったのかも?
「色彩間苅豆」に登場する腰元・かさねは、同じ家中で十五以上歳上の与右衛門と深い仲に。出奔した彼を追い、川のほとりで追いついたかさねは、初夜の思い出を語るなどして、切々と恋心を訴えます。戸惑う与右衛門に懐妊を告げ、心中を迫っているところへ流れついたのが、卒塔婆に乗った一つのどくろ。
実は与右衛門は十五年前、かさねの母とも密通し、夫の助を殺した過去があります。どくろは助のものであり、その祟りでかさねの顔は、いつの間か醜く変わっています。
忌まわしい記憶を呼び覚まされた与右衛門は、変わり果てたかさねの姿を見て殺す事を決意。欲望に流されるまま生きて来た彼にとって、かさねの一途な気持ちは、だんだん疎ましさを感じるものだったのでしょう。十代の彼女を翻弄するのは赤子の手をひねるようなものであり、最初から気まぐれな遊びだったに違いありません。
容貌の変化に気づかずにいるかさねに切りつけた与右衛門は、嫌がる彼女に無理やり鏡を見せます。これも親の因果のせいだと言い放たれ、殺されたかさねは、最後は怨霊となってしまいます。
かさねが鏡で見せつけられたのは、その顔だけではなく、変わり果てた愛の幻想と終焉だったのです。