HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第六十回「見栄っ張りには見えない真実」

世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

見栄っ張りには見えない真実

意地と見栄は「諸刃の剣」。そんな事を思わせるのが「御所五郎蔵」です。
ストーリーはシンプルな三角関係。元武士の五郎蔵は、旧主・浅間家の元同僚・星影土右衛門と因縁の間柄。五郎蔵の恋人・腰元皐月に横恋慕していた土右衛門とともに、お家を追放となります。生活に困った五郎蔵を支えるため遊女になった皐月に、土右衛門はなおも執心しています。
俠客となった五郎蔵と、浪人となって男伊達を張る土右衛門が吉原で7年振りに出会います。以前、五郎蔵が土右衛門の子分をやっつけたため、互いに遺恨を持つ子分たちはいきり立ちますが、二人は互いに相手を牽制しながら睨み合います。
注目は五郎蔵の「見栄っ張りぶり」。皐月をよこせば喧嘩の恨みは水に流すと交渉する土右衛門に「仕返しを恐れて女房を譲ったと世間に思われては男が立たない」と拒否。その直後、恩ある旧主のために百両の金策に困り、皐月にも金策を頼む五郎蔵。見かねた皐月は、自ら土右衛門に身請けされて金を得ようと決心し、五郎蔵ら関係者の目前で嘘の愛想尽かしをする羽目になります。
必死で五郎蔵に真意を知らせようとする皐月でしたが、それに気づかない五郎蔵は「女房から手切金をもらっては世間に顔向け出来ない」と怒り、一同に「晦日に月が出る廓(さと)も闇があるから覚えていろ」の捨て台詞を残して、後に破滅する事となります。月が痩せる晦日の夜でさえ、賑やかで明るい吉原にも暗闇があるから気をつけろという意味ですが、内なる闇に潰されたのは当の本人でした。
意気がって俠客を気取りながらも、常にどこか体面を気にしているのが、半端者の哀れさを感じさせてリアルです。