HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第四十二回 「ぶちまけ勝ち!逆上女の劇場型暴露」
文・イラスト/辻和子
ぶちまけ勝ち!逆上女の劇場型暴露
近ごろ良く聞く「劇場型」という言葉。政治や不倫騒動の渦中の人物が、まるで演劇のような派手なパフォーマンスで人目を引き、見る人はそれを見せ物として楽しむという構図です。 そんな劇場型の元祖が「八重桐廓噺」の落ちぶれた遊女・八重桐。遊廓からともに駆け落ちした元夫の源七は行方知れずに。ある日八重桐は、たまたま通りがかった屋敷の中から聞こえてくる歌を耳にします。それは以前に源七と共作した歌でした。そしてお姫様と腰元らに囲まれた、煙草の行商人姿の源七を発見。その楽しげな様子に「親の敵討ちのため」という名目で、源七から離縁されていた彼女の怒りは大爆発。 ここで一同に思いをぶちまける「しゃべりの芸」がすごい。劇場型で重要なのは「人目を引く短いつかみ」と「いかにして観客を巻きこむか」。彼女がとったのは、傾城の恋文の祐筆(代筆者)というふれこみ。この一言で、お屋敷暮らしで世間のニュースに疎いお姫様や腰元たちの心を見事にゲット。興味しんしんの彼女たちに「おたずねのうても言いとうて言いとうて」と語り出し、源七とのなれそめから、同僚遊女との三角関係を経て、あげくには遊廓中の大乱闘に発展した事件を、ワイドショーの再現ドラマよろしく面白おかしく大げさに喋りまくるのです。 そうして十分に観客を引きこんでから当の源七の前で、最大のキモである恨みつらみを展開し、長年のうっぷんを晴らすという高等戦術。源七は実は坂田蔵人時行という武士であり、身分を隠して敵を探すため、やむなく別れたという言い分に、八重桐は敵はとっくに彼の妹が討ったと告げます。一枚も二枚も彼女のほうが、役者が上でした。 自分を恥じて自害した源七の無念の魂が宿って超能力を得た八重桐が、後にあの金太郎(坂田金時)を産むというオチつきです。