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世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

第二十六回「因果の果て〜哀しみの絆〜」

自分ではどうしようもない境遇におちいった時、選んだのは「虚構の人生」—それが「三人吉三」のお嬢吉三です。 登場するのは、社会から落ちこぼれた三人の不良たち。同じ吉三郎という名前を持つ盗賊仲間という設定で、和尚吉三はワイルドなアニキ系、お坊吉三は浪人くずれ、お嬢吉三は女装の美形です。 彼らの共通点は、家族から切り離され、社会からも見捨てられて、世の中の底辺で刹那的に生きているところ。心淋しい三人の若者が、偶然の出会いをきっかけに、義兄弟の契りを結びます。 今どきでいえば、繁華街の裏の駐車場でたむろっている不良というところですが、お嬢らの絆は、もっと哀しいまでに強い。この作品が書かれた幕末は、桜田門外の変や、地震などの天変地異があいつぐ内憂外患の激動期。未来が見えないボンヤリとした不安が世の中を覆い、彼らはそんな時代の落とし子と言えます。 八百屋の息子だったお嬢吉三は、幼い時に誘拐され、旅役者に売られました。そのため女装は得意です。そして出会ったお坊らと、肉親以上の絆を結ぶ。いわば虚構の人生を選ぶことで、不安な生を生きようとしたわけですが、そこには、どうしようもない「因果」が潜んでいました。 過去に和尚の父親が盗みを働いたことにより、お坊の家は破滅。お嬢の父は、和尚の父が捨てた子供を拾って育てていたという関係。それらが発端で、本人たちも知らない因果が複雑に絡み合い、三人を追いこんでいく展開は、背筋がゾワリとします。 とどめは、お嬢が売春婦から奪った百両。お嬢は知りませんでしたが、それは前述した過去の出来事に関係した重要な金であり、それから三人の運命は、加速度的に狂っていきます。 転落の原因は自分にあるわけではないのに、ある要因で、脱出不可能な運命を背負わされてしまう。そんな不条理な世の中の構図を、作者は「親の因果」という、わかりやすい形で示してみせました。 追いつめられたお嬢ら三人は、互いに刺し違えます。運命に逆らえないと悟った結果、虚構の人生をまっとうすることを選んだのです。