HOME > 世渡り歌舞伎講座 > 第十七回「小さな幸せの大きさ」

世渡り歌舞伎講座


文・イラスト/辻和子

第十七回「小さな幸せの大きさ」

「仲良きことは美しきかな」という言葉がありますが、人生の幸運の鍵を握るのが「夫婦仲」。何かにおびやかされる事なく、日々の糧が得られて、その上、パートナーとの仲が良ければ、人生は大成功と言えます。協力しながら働いて、子供も出来れば、家はますます栄えていく事でしょう。
そんな昔ながらの「幸せへの願い」を描いた舞踊が「団子売」。町にやって来た団子売の夫婦が、新年を祝って餅をつき団子を作るという、軽快でユーモラスな舞踊です。
夫婦の名はお臼と杵蔵。
「臼と杵とは女夫(みょうと)でござる」という詞章にもある通り、臼と杵で子供(餅)を作る事を暗示しており、夫婦和合、五穀豊穣、子孫繁栄の願いがこめられています。
「雪か花かの上白米を痴話と手管でさらして挽いて情けでこねてしっぽりと〜」という、冒頭の詞章(餅つきを描写したもの)も洒落ています。たまには痴話喧嘩もするのでしょう。二人で仲良く餅をつき、頬を寄せ合う仕草も、観客の微笑をさそいます。
文楽から歌舞伎に移された作品ですが、文楽は歌舞伎に較べると、民俗的な色彩が濃いもの。本作にもそんな雰囲気が残っています。
「お月様さえ嫁入をなさる年はいくつえ十三七つえほんにえお若いあの子を産んでヤットきなさろせ
とこせ〜」
という中盤の詞章で、それぞれが一人踊りをしますが、まったりした民俗チックなテンポが心地良く、遠い昔に誘われるようです。
団子を売るという平和な仕事を楽しめるのも、五穀豊穣が成り立ち、世の中が安定している証。夫婦のみならず、社会と人間、人間と自然も和合している幸せな状態です。
後半では、おかめとひょっとこの面をかぶって、身ぶり手ぶりも面白く、末永く幸せな老後を暗示して、めでたく踊り収めます。晴れ晴れとした解放感も本作ならでは。
終始伸びやかなムードの本作で唯一、忙しい思いをしている人が。それは笛の伴奏者。にぎやかな曲のため、最初から最後までほぼ休まずに大きな音で吹き続けなければならず、なかなか大変だそうです。