ドキュメンタリー映画や身近な出来事を題材とした映画を生み出しているマイク・ミルズ監督と、SNSなどで多く考察され話題となった新感覚ホラー映画『ミッドサマー』などを手がけた映画製作・配給会社A24 が第1弾の『20センチュリー・ウーマン』に続いて、待望のコラボ第2弾『カモンカモン』を完成させた。本作の主演は、アメコミ映画史上最強のヴィランとも呼ばれる『ジョーカー』を演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス。悪のカリスマ『ジョーカー』の狂気的なイメージとは180度かけ離れた、不器用ながらも、だんだんと相手を理解していく心優しい役どころを熱演している。

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物語はNYでシングルライフを送りながら、子供たちへのインタビューを仕事としているラジオジャーナリスト・ジョニー(ホアキン・フェニックス)がLAに住む妹から頼まれ、数日間9歳の甥・ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を見ることから始まる。本作の着想は監督が、妻である映画作家でアーティストのミランダ・ジュライとの間に生まれた子ども・ホッパーをお風呂に入れている時に得たという。実際にミルズ自身が子育てをしていく中で経験した、さまざまな“想定外の出来事”にインスパイアされたストーリーで、ぶつかり合いながらも、お互いに理解し歩み寄ろうとする二人の姿は、両親との間で自分も経験したことあるようなどこか共感できる内容だ。
しかし、シングルライフのジョニーはジェシーと“叔父と甥”の関係であり、突然経験したことのない“子育て”という生活に放り込まれてしまう。他人でもなく親子でもない『叔父と甥』という設定にしたのは、何も知らない主人公が一夜にして、子育ての厳しさを思いっきり味わえる方法だったからだ。監督は「ジョニーは親が学ぶべきすべてのことを学ばなければならなくなる。それも早急にね。」「父親になると、自分は何に対しても初心者であり、物事の変化についていくのに精一杯だと感じることがある。これは、その混乱を再現する方法だった。子育ては起きていることに対して、いつも準備ができていない状態なんだよ。これは生物学的な親にならなければ経験できないことではない」と語っている。
物語の舞台となっているのは、ロサンゼルス・ニューヨーク・デトロイト・ニューオリンズの4都市。東、西、南、北の各都市が1つずつピックアップされているのも魅力の一つ。時系列で撮影された本作はジョニーが住んでいるアパート以外、ほとんどのロケ地は実際に生活が営まれている場所で行われており、よりリアルな世界観が生み出されているが映し出されるのはすべてモノクロ映像だ。「白黒にした理由はすごくたくさんある。まずここで僕が語っている物語は、すごくありふれたことだと思うんだよね。子供をお風呂に入れて、一緒に寝て、ご飯食べるというものだからね。だけど白黒にすることで、その日常風景から切り離されて、これは”物語”なんだ、ということをまず提示できると思った。」と監督は答えている。
また、本作はラジオジャーナリスト・ジョニーを演じているホアキン・フェニックスが、ロケ地である4都市に住んでいる9~14歳の子どもたちへ、実際にインタビューしているドキュメンタリータッチのシーンが組み込まれているのも特徴的だ。“自分たちが住んでいる街について、現在の生活について、世界について、そして未来について”率直に語っている彼らの“生の声”は生々しくもパワフル。なかなか聞くことがない彼らの思いや考えは、ハッとさせられることや、改めて考えさせられることも多い。このインタビューシーンはジョニーとジェシー2人の物語とも呼応していて、“すべての大人は子供と彼らの未来に責任がある”という強いメッセージを発している。
マイク・ミルズ監督と映画製作・配給会社A24、そしてアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスがタッグを組んだ映画『カモン カモン』は4月22日(金)から、TOHOシネマズ 梅田ほか全国でロードショー予定。
◎Text/関谷佐和子(クエストルーム)
4/22 FRIDAY〜【大阪・TOHO シネマズ梅田、名古屋・伏見ミリオン座 他全国ロードショー】
映画「カモン カモン」
■監督・脚本:マイク・ミルズ
■出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト
■音楽: アーロン・デスナー、ブライス・デスナー(ザ・ナショナル)
■配給・宣伝: ハピネットファントム・スタジオ
2022年03月15日 <公演レポート!>久石譲指揮、日本センチュリー交響楽団「第262回定期演奏会」
スタジオジブリをはじめ人気映画の音楽を多数作曲していることで、広い世代からの支持を得ている久石譲が、日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任したのは2021年4月のこと。2021年度シーズンの掉尾を飾る「第262回定期演奏会」は、当の久石譲が登場し、彼が選んだ現代の音楽を中心とした、挑戦的なプログラムを、満員の聴衆に披露した。

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久石が1曲目に選んだのは、エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトが1986年に作曲した「フェスティーナ・レンテ」。「悠々とゆっくり急げ」の意味を持つこの曲は、弦楽器とハープだけの静謐な曲だが、現在の世界情勢を考え、またペルトの生まれたエストニアを含むバルト3国とロシアの関係などを思いながら聴いていると、まるでレクイエム(鎮魂歌)のようにホールに優しく響いた。偶然とは云え、実にタイムリーな選曲からコンサートは始まった。
続いての曲は、久石譲が2019年に作曲した「Variation 57〜2台のピアノのための協奏曲」チェンバー・アンサンブル版を、新たに2管編成のオーケストラ用に書き直したもの。3つのモチーフと57のヴァリエ―ション(変奏)で構成されたこの曲は、ニューヨークの57thストリートに滞在していた時に着想し、スケッチを書いたのでこの名前になったそうだ。この日が管弦楽版の世界初演となった。演奏したのは、2021年に「第70回ミュンヘン国際音楽コンクール ピアノデュオ部門」で、第3位と聴衆賞を合わせて受賞した新進気鋭の姉妹デュオ、Piano duo Sakamoto(坂本彩、坂本リサ)。久石がYouTubeで彼女たちの演奏を見て、この子たちで行こう!と決めたそうで、リハーサル初日が初めましてだったとか。
この曲は、久石がSingle Track Musicと呼ぶ手法で書かれている単旋律で和音の無い音楽だが、特定の音の並びによっては、まるでフーガや和音の様に聴こえるという音の特性を利用したものとなっている。幼い頃からジブリ映画を見て育ったという坂本姉妹は、久石を神様のような存在と呼ぶが、久石の作るジブリ音楽とは違うもう一方のミニマル音楽をはじめとする現代音楽を、どのように捉えているのか、話を聞いた。
「同じことを繰り返しているだけのように思えますが、光の当たり方でグラデーションが変わって行くように、どんどん変化していきます。変拍子の連続で、オーケストラと合わせるのは難しいのですが、色々な楽器とピアノの音が混ざり合って、魅力的な響きになります。」坂本リサ 談。
「現代音楽はコンクールでも演奏しますし、好きですよ。演奏中は一瞬たりとも気が抜けませんが、お客様も緊張感を持って聴いてくださるはず。奏者とお客様が一つになれる曲だと思います。久石さんの作られた曲を世界初演出来るのは、大変光栄なことです。」坂本彩 談。

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久石は語る。「この曲、自分の曲の中でも1、2を争う難しい曲です。16分音符を正確に弾かないとずれてしまいます。当初、客席に音を飛ばすためにピアノの蓋を客席に向けて開けていたのですが、それがオーケストラとピアノを分断していることに気付きました。蓋を取ったら、お互いの音が聴き易くなり、上手く行きました。オーケストラもピアノも、自分の出る位置や、きっかけを確認してもらう意味で、テンポを通常よりゆっくりやりましたが、他の楽器の動きが分かり、効果がありました。これで本番は大丈夫」
かくして、本番の「Variation57」は、ピアノとオーケストラによる新鮮な音楽がホールに響きわたったが、演奏が上手く行った事は、久石の表情が物語っていた。少し呆気にとられた客席とは対照的に、喜びに溢れた表情の坂本姉妹と、オーケストラのメンバーの誇らしげな表情が印象的だった。

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20分の休憩を挟んで始まった後半は、プロコフィエフの交響曲第7番。この日のプログラムの中で一番古い曲だが、それでも1952年の作品。しかしこの曲には調性も旋律もあって、とてもわかりやすい音楽だ。センチュリーの演奏は第1楽章から拍節感を意識したリズミカルな音楽。リハーサル時に久石が「前半で「バリエーション57」をやると、正確に刻むリズムが後半の曲に影響するんですよ。」と語っていたことを思い出した。なるほど。第3楽章の冒頭、映画音楽のようなメロディをオーケストラは歌いがちだが、程よくクールでリズミカルな演奏に合点がいった。そして第4楽章の軽妙洒脱な音楽が、昨今の重い空気を一掃してくれるように心地良く感じた。前半のプログラムとは打って変わり、カラダが揺れる!第4楽章のラストは、静かに終わるバージョンと華やかに終わるバージョンがあるが、この日はオリジナルの静かに終わるバージョンで演奏を終えた。

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「これぞ久石譲の本領発揮。リズム、メロディ、ハーモニーという音楽の三要素を、有る無しと使い分けることで、音楽の魅力を強く意識付けた見事なプログラム!」と、拍手をしながらカーテンコールを見ていると、定期演奏会には異例な事だがアンコールのハチャトゥリアン「仮面舞踏会」が始まった。この曲、タイトルは知らなくても、聴いたことがある聴衆が殆どではなかったか。フィギュアスケートの浅田真央が、フリーで使用していた曲だ。曲が始まると聴衆は顔を見合わせ、頷きながらもカラダが揺れる、揺れる(笑)!この1曲で、少なくとも定期会員を希望する人数が4、5人増え、ロビーでのCDの販売数が10枚は変わったのではないか(笑)。
アンコールまで含めた緻密に計算され尽くしたプログラミングの勝利!久石譲の緻密な計算にやられたと思った。そして、久石の要求通りに演奏する日本センチュリー交響楽団の演奏技術の高さには舌を巻いた。
ホールを出て帰路につく聴衆の弾ける笑顔を眺めながら、音楽の力、エンターテイメントの力を再確認した、素晴らしいコンサートだった。
◎Interview&Text/磯島浩彰
坂本姉妹インタビュー掲載 MEG関西版Vol.9 デジタルブック

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2022年01月31日 <会見レポート!>佐藤アツヒロ主演 舞台「行先不明」、作・演出の藤井清美と再タッグで上演!
2019年に御園座と新橋演舞場で上演された『ブラック or ホワイト? あなたの上司、訴えます!』に続き、作・演出の藤井清美が佐藤アツヒロと再びタッグを組んでおくる、完全オリジナル舞台『行先不明』の製作発表記者会見が1月20日に東京都内で行われ、主人公で“運の悪い男”佐々(さっさ)役の佐藤アツヒロ、真面目な同僚・三國役の五関晃一(A.B.C-Z)、そして佐々から社長の座を奪った檜山を演じる真琴つばさ等が登壇した。

パワハラをテーマにした“お仕事コメディ”『ブラック or ホワイト?』に対し、今回は、とある小さな旅行代理店が舞台。横領されてしまった社内の積立金を巡り、それぞれがどう対応していくのかがユーモラスに描かれる。
藤井「自分たちが思い描いていた未来や将来の夢を全て失ってしまった人たちが、自分たちの生き方をみつめなおすような作品です。今やコロナ禍で、本当に思ってもみなかった現実と向き合う人も少なくないはず。そんな世の中だからこそ、とにかくあきらめないで、行き先を探し続ける人々の物語を贈りたい」
佐藤「僕が演じるのは、不安の中でひとり希望を持ち、みんなと協力しながら問題を解決していくキャラクター…そのわりには物語の前半部分では“運の悪い男”として描かれていて、そういうドジな部分も出て来ますが(笑)、結局はチームを希望へと導く、物語の中心人物です。今回は台本を読む限り、12名の役者それぞれに均等にセリフが割り当てられていて、みんなよく喋る。本格的な稽古はこれからですが、この壮大な“お仕事コメディ”でお客さんに夢をお届けしたい」
五関「真面目すぎるほど真面目な役です。藤井先生に初めてお会いしたとき“五関さんに寄せて書いたので、あまり役作りをする必要がないと思う”と仰っていただいたのですが、稽古が始まってガッカリされる前にあらかじめお伝えしたいと思います。僕はけっこう適当な男です!(笑)。なのでこの台本にお尻をたたかれながら、稽古を重ねて、本番までには、皆さんに笑っていただけるような芝居をしたいと思っています」
真琴「『ブラック or ホワイト?』に続き、藤井さんと佐藤さんの最強タッグの中に、また入れていただいてとても嬉しい。20年振りくらいになる五関さんとの共演も楽しみです。台本を昨日いただき、深夜2時頃にページを開いたのですが、面白くて一気に読んでしまいました。12角形の卓球台を囲み、みんなで一斉にラリーをしているみたいなかんじ。私自身、人生の“行き先”をたまに見失うことがありますが(笑)、この作品を通してそれをみつけたい!」
藤井「それぞれの俳優さんが持つ資質や魅力に向けて書いたつもり。特に今回、アツヒロさんには、ガチで困っていただきます(笑)。というのも、アツヒロさんはたとえ凄く困っていても、少しも惨めに見えないし、お客さんがつい“がんばれ!”って応援したくなるような人だから。五関さんにしても、下手したら嫌われるかもしれないキャラクラーの、そのギリギリのところで絶妙に演じてくださるはずだし、真琴さんの役も、かなり浮いた存在なのだけれど(笑)“わかる~こういう人、職場にいるいる”って微笑ましく思っていただけるのではないでしょうか」
初日は3月4日(5日まで)。東京に先駆けて、先ずは名古屋の御園座で上演される。
真琴「公演はもちろんのこと、名古屋に行ったら“食”も楽しみです。今回もテイクアウトまつりになるかも…わらびもちは必須だし、鶴舞公園にあるカフェのチーズケーキも絶対、お持ち帰りしたい!」
佐藤「修学旅行ではないですが、やはりテンション上がりますね。上がったそのままで本番に臨み、先ずは御園座を成功させて、その勢いで池袋のサンシャイン劇場に向かいたい。どうかご期待ください!」

左から 真琴つばさ、佐藤アツヒロ、五関晃一(A.B.C-Z)
3/4 FRIDAY・5 SATURDAY【チケット発売中】
「行先不明」
■会場/御園座
■開演/3月4日(金)18:00 3月5日(土)12:00、17:00
■料金(税込)/全席指定 A¥10,000 B¥5,000
■お問合せ/CBCテレビ事業部 TEL.052-241-8118(平日10:00〜18:00)
*未就学児入場不可
2022年01月09日 <会見レポート!>女性3人の会話劇『truth~姦しき弔いの果て~』堤幸彦監督

堤幸彦監督のインディーズ映画『truth~姦しき弔いの果て~』が全国公開中だ。本作は「精子バンク」をテーマに女の本音を映し出した、俳優3人による会話劇となっている。 今回はこれが50作目となる堤幸彦監督の合同インタビューをレポート!
ある男の葬儀の夜、彼のアトリエで3人の女性が鉢合わせする。全くタイプの違う彼女たちは、それぞれ3年前からその男と同時に付き合っていたことが発覚し―。広山詞葉、福宮あやの、河野知美の3人が、ワンシチュエーションの演技合戦を熱く展開する。
―どのように企画が立ち上がったんですか?
私も含めコロナ禍で映像、舞台などさまざまなショービジネス関係者が今も苦労しています。私は今66歳で、22歳の頃からこの仕事を始めて仕事が途切れることはなかったんですが見事に0になってしまいました。その時に3人の女優から「映像作品を作りたい」と、とてつもない熱量の体当たりを受けました。ちょっと笑えて切なくて、一言では語れない映画にすべきではないかと僕から提案し、一人の男と3人の女が同時に付き合っていて、ミステリーも残る構造にしたいと思いました。
ー個性的な女性たちのキャラクターは狙い通りに?
そうですね。今を生きる女性の側面を3人に散りばめようと思いました。3人を当て書きのように書いた脚本の三浦有為子さんの神通力にも驚きましたが、巧みにキャラ分けされ、ぴったりハマりました。広山詞葉さんが演じたのは狭いエリアの中で自分がNo.1だと思っていて、そう思わないと生きていけない寂しさを抱えた女性。福宮あやのさんはシングルマザーの元ヤンキー役。妊娠中の身で参加してくれました。生命力のある役者ですね。河野知美さんも成り立ちと立ち位置が面白い役。理詰めで物事を追究し、爆発した時が面白い。三人三様の3人と作った映画が偶然にも私の50本目で、今後の作品作りの一里塚になると思います。

―3人の女性に愛される男の役に、佐藤二朗さん。キャスティングは?
資産家、多趣味、絵も達者な男。僕は佐藤二朗しか思い浮かばなかったです。同じ愛知出身で同郷の同志ですが、彼はカリスマ性、イケメンでは醸し出せない神々しさがあります。この作品は諸外国で7つの賞をいただいていて、イギリスの映画祭ではベストコメディー賞。佐藤二朗なんか誰も知らないのに、彼が出てきた瞬間、爆笑が起きたんです。世界に通じる笑える顔なんですかね。本当にキャスティングしてよかった。
ーインディーズ映画をやってみて良かった点は?
誰にも気を遣わず、気兼ねも制限もなく面白おかしくできたこと。製作委員会方式の映画は企業が出資し、その分いろいろチェックが働くんですが、私も自主規制してしまい作品が丸くなっちゃうんです。今回は全くそれを意識せずにやれた。ゲリラ的なモノ作りをしていた僕らのような人間も、長年続けていると口当たりのいいものに走りがちです。眉をひそめるようなもの、過激なもの、仰天するものが創作の原点にあることを忘れていたかもしれない。制限なしに作ることが本来の創作の第一歩。戒めに気づかされました。もう一度自分を初期化する意識を持てて良かったと思います。
ーコロナを経ての発見は?
ショービジネスが完全に閉ざされ、本当にいくつもの作品が消滅や延期になりました。我々の仕事自体が非常時には不要不急だと存在価値を全否定されているような時代で、飲食業などたくさんの方が大変な事態になってしまった。それに対し国家はある程度のセーフティーネットは発動させていると思いますが、実感もありません。でもこんな時だからこそ、インディーズとはいえ世界に評価もされた。「信じて進む」というスローガンをしっかり持ち、コツコツと立ち上がっていくことを彼女たちから教わりましたね。同じような思いをたくさんの作り手が持っていて、これまでとは違うやり方があるんじゃないかと模索しています。表現の経済的基盤も含めた再構築はコロナを経ての学習でした。前に進むための気づきになったと思います。
◎Interview&Text/山口雅

1/7 FRIDAY~
[名古屋・センチュリーシネマ、大阪・シネリーブル梅田他 全国ロードショー]
映画「truth~姦しき弔いの果て~」
■監督・原案/堤幸彦
■出演/広山詞葉 福宮あやの 河野知美 佐藤二朗
■脚本/三浦有為子
■脚本/ラビットハウス
©2021 映画 「truth~姦しき弔いの果て~」パートナーズ
2021年12月23日 <レポート>「関西えんげき大賞」が始動! 制作発表会見をレポート
関西演劇界の活性化を図るため、2022年より関西えんげき大賞が設けられることが発表され、発案者及び呼びかけ人代表である大阪芸術大学短期大学部メディア・芸術学科教授で演劇評論家の九鬼葉子氏をはじめ10名の呼びかけ人が発表会見を開いた(2名はZoom参加)。
関西えんげき大賞とは、関西演劇の年間ベストステージを決める大賞で、第1回開催は2022年1月から12月の舞台が対象、2023年2月に授賞式を開催する。受賞対象作品は関西の劇団及び関西発のプロデュース公演となっている。
選考方法は、評論家、研究者、DJ など関西の演劇をよく観ている8名の選考委員が年間ベスト10作の優秀賞を発表。そして、さきの選考委員を含む約30~40名の投票委員と観客投票の総合点で10作品の中で最も高い作品を最優秀賞とする。また、観客投票の中から「観客投票ベストワン賞」も設ける。
優秀賞には賞状のほか、該当作品の再演支援として協力劇場の使用料減免が副賞として贈られる。なお、観客投票は事前登録で参加可能。登録先は「関西えんげきサイト」となっている。
発表会見では、九鬼氏をはじめ10人の呼びかけ人がそれぞれ関西演劇への思いなどを語った。
企画の趣旨説明をした九鬼氏は、赤裸々な表現を交えながら次のように話した。「なぜ何年もかけて大切に準備されてきた演劇祭が中止に追い込まれないといけないのか、なぜせっかく稽古してきたのに本番も稽古も中止なのか、それも直前に。アーティストやスタッフの方々は、何か悪いことしたか、何もしていないじゃないか。今の地球は理不尽がすぎる。こんちきしょうと思っていました。その怒りが妙なエネルギーに変換されました」と動機を明かし、「関西演劇界を更に活性化させる方法を思い、ふと「関西には『読売演劇大賞』がないと思った瞬間に考えていたことが一瞬で一つの絵になりました」。そして、演劇関係者に広く呼びかけ、多くの賛同者が集った。
2019年より兵庫県に移住し、2020年に豊岡に開場した江原河畔劇場の芸術監督を務める平田オリザ氏は、毎晩のように演劇関係者と集っていた90年代を振り返り、「これからは関西の時代だと言っていたわけですが、大阪は特に市内に公のホールがなくなっていきました。一方、東京では高円寺や三鷹に公的劇場が整備され、プロデュース公演を行うようになり、この20年間で芸術面では大きな差がついてしまったように感じています。2年前に兵庫県に移住し、江原河畔劇場の芸術監督をさせていただき、名実ともに関西の演劇人に加えていただいたと思っておりますので、今回の企画に参加させていただきました。(学長を務める)芸術文化観光専門職大学の授業でも批評論を扱っていますので、演劇批評を担えるような学生が育ってくれたらと思っております」と話した。
「関西えんげきサイト」の編集長・石原卓氏は「80年代にぴあ編集部におりまして、九鬼さんは大先輩になります。私は編集プロダクションや Web プロデュースをやっておりますので、できることはどんどん力になろうと、今回、呼びかけ人と「関西えんげきサイト」の責任者を務めさせていただくことになりました」とあいさつした。
「関西えんげきサイト」は関西の演劇情報を網羅的に発信するほか、編集部独自でアーティストやクリエイターなどにインタビューし、企画や読み物の充実も図る。劇評も掲載し、アーカイブすることで、観客が過去に見た作品について検証や考察ができるようにするという。
続いてTHEATRE E9 KYOTO芸術監督のあごうさとし氏は「常々、演劇作品の再演機会の環境整備に悩んでおりました。私たちは小さな劇場ではありますが、演劇作品をなるべく多くの人に、複数回にわたって伝えられる環境づくりに協力できたらと思い、参加させていただいております。いろんな言論、劇評の世界についても、一歩ずつ育まれるように何かできることがあればご協力していきたいと思っております」とコメントした。
近畿大学の舞台芸術専攻准教授で演劇研究者の梅山いつき氏は、1960年代の小劇場演劇第1世代、アングラ演劇と総称される演劇が専門だ。「6年前に近畿大学に赴任し、それを機に特に大阪を中心にした小劇場演劇をよく観るようになりました。そこで東京と比較すると数としては少ないけれども、密度の濃い作品が多いという印象を抱きました。一方で、関西での小劇場演劇が全体としてどういう動きがあるのか、その全体像がなかなか見えてこないと。「関西えんげき大賞」の話を聞き、関西を中心とする劇場演劇、そして演劇界全体を盛り上げる大きな仕掛けになるのではないか感じました」と期待を寄せた。
また、劇評を発表している「関西えんげきサイト」についても、「批評を伴う企画も重要なポイントだと感じています。歴史を振り返ると、何か新しい表現活動が生まれたり、新しい動きがあるときは、必ず活字が寄り添います。表現活動のそばには活発に論じる批評家がいて、言葉が伴い、それが一種の美術運動やムーブメントに発展していくということがあります。そういった意味でも、「関西えんげき大賞」と「関西えんげきサイト」の開設は関西の演劇界に大きなムーブメントを生み出す起爆剤になるのではないかと感じています」と劇評の重要性も語った。
大阪大学招へい研究員で演劇研究者の岡田蕗子氏は「私は研究者の側面もありますが、エイチエムピー・シアターカンパニーという劇場に19歳の時から所属し、劇場の裏方を担当してきました。今回、「関西えんげき大賞」でお声がけをいただいた時に思ったことは、今まで十数年間、 関西の演劇界で育てていただき、劇場からいろんなことを考えるチャンスを与えてもらっていたことでした。劇場を通じてジェンダーや移民、様々な事を学んできました。そもそもインド哲学という全く違う分野を研究していた学生の私が、演劇学を専門にしようと思ったきっかけは「劇場通して視点が変わる」という非常に個人的な感動があったからでした」と劇場が果たす機能についても言及した。
岡田氏も「関西えんげきサイト」に劇評を発表している。劇評についても「一つの観劇体験を誰かと共有することで、いろいろなことを考えることがなによりも大事だろうと。そのことで自分の世界が少し変わるのではないかとややロマンチックなことを考えますが、そういったこともコロナ禍が広がり、やや停滞した心を少し明るくするために大事なことだと思っております」と続けた。
俳優で「大阪女優の会」副代表の金子順子氏は「演劇ほど自由で闊達な文化はありません。とにかく演劇を元気にして、たくさんの人に演劇を知ってほしい。劇場体験を知ってほしいと思っています。ぜひ皆さん、劇場にお越しください」といざなった。
FM COCOLOのDJ、加美幸伸氏は「演劇と絶妙な関係性を作るため、年間100本以上の演劇に触れるようにしています。そんななか、メディアが演劇と出会う機会や導きを準備すると、好奇心旺盛なリスナーはちゃんと意見をくれるということが分かりました。メディアと観客とが手を取り合ってつながりあうこと。こういった賞やサイトが生まれることで、豊かな演劇シーンにつながっていくのではないかと常日頃から思っております。大変期待しています」と声に力を込めた。
一心寺シアター倶楽館長の髙口真吾氏は「今回、九鬼さんからお話をいただいて私も発起人の一人として参加させていただきました。今日の発表に至るまでの経緯を1年前から目撃しておりますが、その中でも思うのは、九鬼さんは本当に演劇に愛のある人だということです。お客様には演劇で盛り上がっていきたいという素直な気持ちをお伝えして、その一連の中に「関西えんげき大賞」や」「関西えんげきサイト」があるのだと示して、微力ながら協力できればいいなと思っています」と思いを語った。
大阪大学の演劇学研究室教授で演劇学者の永田靖氏は「私は演劇の教育と研究に携わっているのですが、演劇作品の上演があってこそできることです。関西演劇の一層の活性化を期待しています。演劇を観ることに加え、大事なのは上演後にそれを継続的に議論するということです。日本の演劇全般に決定的にないのは、上演後の議論です。「関西えんげきサイト」でもいろんな試みをされています。微力ながらご協力させていただければ幸せです」と語った。
関西演劇の魅力を尋ねられた九鬼氏はこう答えた。「不屈の精神です。関西演劇と40年、付き合っていますが、くじけずに立ち上がってきた歴史です。東京では区立の劇場が立派で、国立の劇場とそん色ありません。一方、大阪は市立の劇場がなくなり、稽古場もなくなっている。そんな環境下でも次々と新しい劇団が生まれ、ベテランの劇団も活動を続けています。関西には社会に対して真面目に、照れずに、ストレートな批評性があります。それは中央の視点ではなく、関西の生活言語で、生活者の視点で普通の人々が主人公になっている。そして、創意工夫。お金をふんだんに使った舞台は豪華だなとワクワクしますが、お金がないと知恵で勝負します。私たちの生活と一緒ですね。低予算でよくこれだけ観客の想像力を喚起する工夫をしたなと、その知恵にも感動しています」。
関西演劇界の活性化をはかるためスタートした「関西えんげき大賞」。「関西えんげきサイト」では随時、情報や劇評、企画を更新する。
関西えんげきサイト
https://k-engeki.net/
