2023年02月02日 <オフィシャルインタビュー到着!>まもなく来日!ジャズ・ピアニスト ブラッドメルドー日本公演
グラミー賞受賞アーティストである、ジャズ・ピアニスト ブラッド・メルドーが2月3日(金)東京オペラシティ コンサートホールを皮切りに、来日ツアーを行う。4年ぶりの来日に先駆けて実施したメールインタビューでは、今回の公演に向けての意気込みを語った。
【オフィシャルインタビュー】
――2019年の来日公演におけるトリオとソロによるショウは日本のファンにはいまだ瑞々しい記憶として残っています。あなたは、あの時のことで何か印象に残っていることはありますか。
A.日本に訪れたときの記憶は、どれも魔法のようです。私の出身地とは全く異なる場所ですが、同時に観客との強い結びつきがあり、ある意味、故郷のように感じています。
――来日時、公演以外のオフの時間で楽しみにしていることはありますか。
A. 東京と大阪に来るたびに、携帯電話のマップも持たずに、どこに行くのか決めずにホテルを出ます。そして、新しい街を発見するのです。私はいつも街のリズムを感じ、香りを感じ、そして人々の生活の営みを見つめ、その中に美しさや不思議さを見いだす「人間観察」をすることが好きです。
――翌年(2020年)、世はCovid-19のパンデミックに入りましたが、ツアーはともかく、あなたは悠々と活動を継続していたように思います。アルバム・リリースは、『Suite: April 2020』、『Jacob's Ladder』、ジョシュア・レッドマンとのカルテット、オルフェウス室内管弦楽団との『Variations On A Melancholy Theme』など活発でした。近く、ソロによるザ・ビートルズ曲集も出ますよね。
A. そうですね、活動を続けることができ、とても感謝しています。
――現在トリオで、そして少し後にはクリスチャン・マクブライドらとのクインテットで米国を回りますよね。今、ツアーはどんな感じで進んでいますか。
A. 素晴らしいです。クリスチャンと演奏するのは、空高く舞い上がる魔法のじゅうたんに乗っているようです。彼は最高です。
――先に触れましたが、あなたはザ・ビートルズ曲集を出します。あなたはライヴでもよくザ・ビートルズの曲を演奏していますが、なぜ今回その『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』を出そうと思ったのでしょう?
A. 私がアレンジしたコンサートのプログラムから生まれた機会でした。パリで行われた様々なアーティストによるコンサート・シリーズのひとつで、ビートルズの全リストを紹介するものでした。ビートルズの全曲の中から、ストーリーを見出し1時間のレコードの中におさめるという、楽しいチャレンジでした。
――今回の日本公演では東京と大阪でソロ・ピアノによる公演を行います。やはり会場によって流れは変わるんでしょうね。たとえば、『Suite: April 2020』や『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』、『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』らの内容とも違ったものになるのでしょうか?
A. はい。ビートルズの曲や、「Suite: April 2020」から何曲か入れる予定です。また、私のオリジナル曲や、自分なりに曲を解釈した演奏など、さまざまな曲を演奏予定です。
――また、東京では2日、東京フィルハーモニー交響楽団と公演を行います。今、事前にどのような青写真を描いていますか。どんな曲を取り上げるのでしょうか?
A. 私が書いたピアノ協奏曲を演奏します。3楽章構成です。また、東京フィルハーモニー交響楽団と一緒に演奏します。オーケストラと一緒に演奏できることをとても楽しみにしています!指揮は、私がよく一緒に仕事をしている素晴らしい指揮者、クラーク・ランデルです。
――これまでもオーケストラとの公演は行っていると思いますが、大掛かりなぶん苦労する部分もあるかと思います。オーケストラと一緒に演奏する醍醐味はどんなところにあるのでしょうか?
A. 大変ですが、多くのミュージシャンの中に入って、大きな音のパレットを体感できるのは素晴らしいことです。
――指揮者として同行するクラーク・ランデルはとても音楽把握力が高く、視野の広い指揮者であると言われています。彼と演奏を共にする期待を語ってください。
A. クラークは驚くほど多才です。最近ではウェイン・ショーターのオペラの初演を指揮し、ジャズのリズムに優れた感覚を持っています。また、クラシック界でも同様に優れている指揮者です。
――オーケストラ用の譜面は誰が書いたものになるのでしょうか?
A.私が書きました。
――日本公演の後は少しブレイクを置いて、スペインをはじめ欧州を回りますね。ツアー/ライヴでこうありたいと、心がけていることはありますか?
A.家にいるときは、なるべく家族と一緒にいるようにしています。音楽と家庭のバランスをとることが大切だと思っています。
――とにかく、疲れを見せることなく、好奇心旺盛に様々なことに挑戦する姿に驚いています。この後の欧州ツアーでは英国人オペラ歌手と公演を共にすることもありますよね。そんな多彩なあなたのことをジャズ・ミュージシャンと呼ぶのは適切なのでしょうか? クラシックからロックまでしなやかに向き合うあなたの表現/活動については別な形容があってもいいのではと思っています。
A. いい質問ですね。私は今でも自身のことをジャズ・ミュージシャンだと思っています。なぜなら、私にとってジャズは他のすべての分野の中で「ホーム」だからです。でも、例えば、イアン・ボストリッジとのプログラムはジャズではないので、あなたがおっしゃるように聴きに来た人を混乱させることがあるかもしれませんね。
――最後に、これまでの質問の答えと重複するかもしれませんが、今度の日本公演についての抱負を語っていただけますか?
A. できるだけ良い演奏をすること、そして観客とつながることです。
(インタビュアー:佐藤英輔)
<ブラッド・メルドー:プロフィール>
今のジャズ・ピアニストのスタイルを規定できる破格の音楽家がブラッド・メルドーだ。右手と左手の斬新な噛み合いが導く清新にして自由なハーモニーやメロディ感覚や揺らぎは、彼以降のピアニストへ多大な影響を及ぼし続けている。1970年、フロリダ州生まれ。NYのザ・ニュー・スクール大学を経て、1995年にワーナー・ブラザースからデビュー。すぐにジャズ界の寵児として認められた彼は、日本でのソロ・ピアノ公演をまとめた2004年作『ライヴ・イン・トーキョー』以降はクラシックからロックまでをアーティスティックに扱うノンサッチに在籍している。そして、自在の指さばきを“魔法の絨毯”とするかのように、黄金のジャズ衝動を介して多様な活動を展開している。
<公演スケジュール>
ブラッド・メルドー ピアノソロ
◆2月3日(金)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル(東京)
◆2月4日(土)15:00開演 紀尾井ホール (東京)
ブラッド・メルドー with 東京フィルハーモニー交響楽団
◆2月5日(日)15:00開演 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル(東京)
◆2月6日(月)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル(東京)
ブラッド・メルドー ピアノソロ
◆2023年2月7日(火)19:00開演 住友生命いずみホール (大阪)
※プログラムの詳細、チケット情報などは公式サイトをご確認ください。
【来日公演公式サイト】 https://brad-mehldau-japan.srptokyo.com/
【主催・招聘・制作】サンライズプロモーション東京
【お問合せ】サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(12:00-15:00)
ジャニーズ事務所「ふぉ~ゆ~」の越岡裕貴が映画初出演にして初主演を果たした。作品は2020年の舞台作品を映画化した「まくをおろすな!」だ。試写当日は舞台版の製作総指揮で、今回初監督・プロデューサーを務めた清水順二が来名。撮影秘話などを聞かせてくれた。
映画「まくをおろすな!」は、清水順二率いる演劇ユニット「30-DELUX」が2020年に公演したミュージカル時代活劇を原案としている。コロナ禍になって以降、若い世代が次々と夢を諦めて舞台を去っていくことに、清水は歯痒さを募らせていた。しかし彼は自らが新しい世界=映画に挑戦することで、何か夢を示せるのではないかと考えた。主人公のブン太こと紀伊国屋文左衛門に「ふぉ~ゆ~」の越岡裕貴、モン太こと近松門左衛門にはモデル・俳優として活躍する工藤美桜を起用。フレッシュなバディ物に仕立て上げた。
歴史上の人物は他にも、吉良上野介義央、浅野内匠頭長矩、松尾芭蕉、由井正雪、大石内蔵助、大岡越前守忠相、堀部安兵衛らが登場。彼らは「生類憐れみの令」で知られる五代将軍徳川綱吉の御代に騒乱を巻き起こす。越岡の共演には同じくジャニーズの寺西拓人や原 嘉孝、高田 翔、室 龍太、さらには岸谷五朗、竹中直人、緒月遠麻、坂元健児と、巧者ぞろい。監督の清水も浅野内匠頭役で出演している。
清水が「舞台と映画のハイブリッド」と言ったとおり、劇場内で撮影されたシーンとロケ地で撮影されたシーンが自由自在に交錯。激しい殺陣やアクションで緊迫した空気を作ったかと思えば、歌ありダンスありでスクリーンを賑やかに彩り、コメディさながらの掛け合いで客席に笑いを生む。やりたいことを存分に詰め込んだような作品だが、その過程には映画の世界であまり行われない入念な「稽古」があったという。これは舞台経験豊かな俳優が多く参加していたゆえの裏話で、創作の方法からしてハイブリッドだったからこそ、ちょっと見たことのない映画が誕生。カット数1100以上というのも驚かされる。
「まくをおろすな!」はエンタテインメント映画で間違いないが、清水いわく「時代劇だけど現代劇として描きたかった」という想いが根底にある。端的なところでは時代考証にとらわれないセリフからうかがえる一方、背景が現在の日本と重なって見える点にはゾッとさせられる。経済格差、政治不安、疫病蔓延……。誰かが引き金に手をかければ簡単に暴発してしまいそうな社会の物語は、言い表しようのない余韻を残して終わるのだった。
なお、清水は中京大学体育学部卒で、生粋の名古屋っ子であることから「ナゴヤ色」も意識。SKE48の井田玲音名と田辺美月のほか、岡崎市出身でWAHAHA本舗所属の俳優・我善導、岐阜県下呂市出身のお笑い芸人・流れ星☆ちゅうえいなど、ナゴヤ文化圏にゆかりのある面々を積極的にキャスティングして、映画により華やかさを添えつつ地元愛をも込めた。地元・中部地区では1月20日(金)から順次公開される。
ちなみに、新たに立ち上げられた演劇のプロジェクト「30-DELUX NAGOYA」が、2023年3月2日(木)~5日(日)、名古屋市中川文化小劇場にて新作舞台「SHAKES」を公演予定。映画の後は、彼らの生のステージも体験してみてほしい。
◎Interview&Text/小島祐未子
1/20 FRIDAY~109シネマズ名古屋ほかにて上映
映画「まくをおろすな!」
(2023年製作・113分・日本)
監督・プロデューサー:清水順二
脚本:竹内清人
音楽:杉山正明
出演:越岡裕貴、工藤美桜/寺西拓人、原 嘉孝、高田 翔、室 龍太/緒月遠麻、坂元健児、田中 精、椙本 滋、清水順二/竹中直人、岸谷五朗
配給:ショウゲート
公式サイト https://www.makuoro.com/
2023年01月15日 <ゲネプロレポート!>和のテイストでおくる新感覚「幕末歌劇」が三重県四日市市で開催!配信も決定!
日本人が大好きな幕末という時代、新選組という存在を、ミュージカルと生演奏で彩った新感覚のステージ「しんみゅ 幕末歌劇 新選組 ~土方・藤堂の篇~」が四日市でツアー初日の幕を開けた。ここでは、前日に行われたゲネプロの様子をレポート!
「しんみゅ 幕末歌劇 新選組」の生みの親「蓮×歌」とは、脚本・演出の時雨らら、音楽監督の印南俊太朗、殺陣の南武杏輔、俳優の椿木沙也加によるプロジェクトだ。彼らはそれぞれの分野で培ったものを活かし、新選組を題材に芝居あり、歌あり、踊りあり、アクションありのエンタテインメントを作り上げた。今回の「土方・藤堂の篇」では、新選組副長として知られる土方歳三と若き精鋭・藤堂平助を軸に物語が展開する。
冒頭はミュージカルやオペラ同様、オーバーチュア(序曲)で始まる。生演奏の迫力もさることながら、ギターやドラム、ピアノ、バイオリンといった洋楽器と、太鼓や篠笛、三味線といった和楽器が混ざった編成の面白さにも引きつけられる。新選組組長・近藤勇のもとには腕に覚えのある若き武士たちが続々と集まり、舞台は青春活劇の様相。その中で、近藤にも組織にも忠誠を誓う副長の土方は、志士たちから厚い信頼を寄せられていた。伊藤甲子太郎のもとで剣術を磨き、新選組の門を叩いた藤堂も、土方を兄のように慕うことに。しかし、時は日本という国の転換期。志はあっても、日本の行く末に対する考え方には自然と違いが生じ、内部分裂。藤堂は家族のような仲間と恩師との板挟みで苦悩する。
国を思って激しくぶつかり合う志士たちの姿と、約3時間の舞台を駆け抜ける俳優たちの姿が重なって、切なく哀しい結末ではあるが、終始、爽快なものを感じた。近藤の妻・ツネ、恋する遊女たち、かわら版記者のサキなど、女性たちが作品に艶っぽさや柔らかさ、温かみを添えていた。
ゲネプロ終了後には土方役の徳山秀典、藤堂役の江田剛、近藤役の菊地まさはる、ツネ役で三重県鈴鹿市出身の棚橋幸代が、熱気も冷めやらぬなか取材に応じてくれた。
徳山:四日市市から話をいただいてから制作段階にも加わり、数年をかけて公演が実現しました。和の要素を取り入れた、世界一おもしろい日本のミュージカルを目指しているので、三重から世界への第一歩を見ていただきたいですね。
江田:藤堂平助は人が好きなんだろうなと思います。懐っこくて興味も幅広い。そんな人物が徐々に葛藤していくんですよね。自分は殺陣やアクロバットが得意なので、それを活かして自分なりの藤堂を演じたいと思います。
菊地:2018年の鈴鹿市のミュージカル「杉本市長と私」以来で三重県の舞台に立たせていただきます。生のパワーがぶつかり合う熱い作品なので、それが客席にもあふれていけばいいなと。お客様にはリラックスして楽しんでほしいですね。
棚橋:ツネは近藤の妻として大きく構えたところはありますが、それでも別れの時には弱さがこぼれてしまう。その両面を踏まえて演じています。本当に素晴らしい作品になっているので、是非一度見てみてください!
なお、四日市公演は1月15日で閉幕するが配信が決定している。
2月6日(月)からは東京・草月ホール公演が開幕する。
◎Interview&Text/小島祐未子
1/14 SATURDAY 1/15 SUNDAY まで開催中
蓮×歌「しんみゅ 幕末歌劇 新選組 ~土方・藤堂の篇~」
■会場/四日市市民文化会館 第2ホール
■開演/1月14日(土)13:00/18:00、15日(日)13:00
■料金(税込)/SS席(パンフレット付) ¥10,000 S席 ¥8,000 A席 ¥6,000
■お問合せ/(公財)四日市市文化まちづくり財団 TEL 059-354-4501
★好評につき、オンライン配信が決定しました!
2023/1/14(土)夜公演 ※アーカイブ配信あり
オンライン開場: 17:30 / 開演: 18:00 / 終演: 20:30
チケット販売期間:2023/1/8(日)~2023/1/22(日)19:00まで
アーカイブ配信: 2023/1/15(日) 18:00 ~ 2023/1/22(日) 23:59
配信チケットの購入は【こちらから】
2022年10月17日 〈会見レポート〉南野陽子と林田一高による朗読劇『アネト』について作・演出の土田英生に聞いた
2022年、詩をテーマにした舞台作品「100年の詩物語」をスタートする兵庫県立芸術文化センター。第1回は南野陽子、林田一高(文学座)を迎え、MONO代表であり、劇作家、役者としても活躍する土田英生書き下ろしの朗読劇『アネト』を11月23日(水・祝)に同劇場で上演する。
神戸で活躍した詩人、竹中郁の詩を折々に織り込みながら、姉と弟の2人の物語を「手紙の朗読」という形式で綴る本公演。開催を前に取材会を行った土田が、作品のコンセプトや、朗読劇の醍醐味などを語った。
ある日、神戸で暮らす女性の元に手紙が届く。それは養子に出されたという「弟」からの手紙だった。姉は弟に返事を書く。折々に地元出身の詩人、竹中郁の詩を添えてーー。その日から生涯にわたる二人の手紙のやり取りが始まる。互いを思いながらすれ違う姉弟(あねと)、それぞれの人生と情愛を、手紙と手紙に添えられた詩の朗読を通して描く。
竹中郁の詩を朗読するのは、関西で活動する男女8人の俳優。「ミュージカルはお芝居の間に歌が入ります。今回は詩の朗読をミュージカルの歌の部分だと捉えて、手紙で二人のやり取りをしながら、間に竹中郁さんの詩を挟み込んでいくという形で物語を展開させようと思いました」。
「各々の人生の節目や壁にぶつかったとき、孤独に苛まれたときに、会ったことがない、だけど血のつながった姉弟にお互いが手紙を出し合います。二人の人生の断片を、手紙を通して感じてもらえたら」と話す土田だが、「どういう状況で人が関係を結んでいるか」ということを大事に思うからこそ、「やっぱり血がつながっているからね」という描き方はしたくないと言う。
「先天的なもので人の関係は決まらない。自分がどういう形で人と触れ合っていくか、どういう気持ちを持って関わるかによって、関係が決まると思っています。この二人は手紙のやり取りがあるからこそ関係性を積み上げられるはずだし、どこかに「僕にお姉ちゃんがいる」「いざとなったら弟がいる」という思いがあるからこそ、実際に会うことは最後の切り札とお互いが思っている関係というのがいいなと。姉と弟でありながらソウルメイトみたいな存在というか」。
朗読劇と銘打っている以上、演劇ではできないもの、舞台上で本を読むからこそ成立するものを上演したいと意気込む。「朗読劇ならではの表現をしっかり作って、演劇に負けないひとつのジャンルとして発表できたら。また、朗読劇で改めて“この人にはこんな魅力があったんだ”と思うことがあります。今回、南野陽子さんの違った一面が見えてくるといいなと思いますし、林田さんは文学座で実績のある俳優さんですから力は問題ないと思います」と、主演の二人にも期待を寄せる。
竹中の人生からも着想を得たという『アネト』。土田は、竹中の詩を通して世界の見え方が変わることも目的にしていると話す。「ときには物語と全く関係ない詩も朗読します。そうすることで、ちょっとずれるからこその面白さが出るんじゃないかなと思っています。竹中さんの詩は割と日常の何げないことを書いている印象があって。でも、何げないことの見え方が竹中郁さんとしか言いようがない。自分にはない視点です。まるで竹中さんのレンズをかけて世界を見ているような面白さがあります」。
朗読劇の代表作ともいえる『ラヴ・レターズ』を学生時代に読み、仰天したと話す土田。「幼なじみが手紙のやり取りをしているのですが、二人は結ばれない。ドラマだったら、結ばれない理由を作ったり、二人の間に横槍が入ったりとか、理由づけをして物語を進めますが、実際の人生ってそうじゃないですよね。僕は『ラヴ・レターズ』を読んだ時、フィクションと分かっていても驚きの連続で、あえて書かれていないからこそ信じられるというか、人生ってそういうもんだなという気がしました。そのときの驚きみたいなもので自分自身の好みが形づくられたのだと思うのですが、僕は演劇でもそうしたいと思っています。その中で朗読劇は“盗み聞き”の面白さを出せるのが魅力だなと思っています」。
◎取材・文/岩本和子
11/23 WEDNESDAY・HOLIDAY
兵庫県立芸術文化センタープロデュース
100年の詩物語
朗読劇「アネト~姉と弟の八十年間の手紙~」
【チケット発売中】
■会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/一般 ¥3,500/U‐25チケット ¥1,500
■出演/南野陽子、林田一高
■朗読アンサンブル/池川タカキヨ、石畑達哉、高阪勝之、髙橋明日香、竹内宏樹、立川茜、東千紗都、松原由希子
■作・演出/土田英生
■詩/竹中 郁
■お問合せ/芸術文化センターチケットオフィス TEL 0798-68-0255
(10:00AM‐5:00PM/月曜休み ※祝日の場合翌日)
2022年10月13日 <イベントレポート!>32年間の思い出話が続々登場!「テアトル梅田 さよならトークイベント」
2022年9月30日、惜しまれながら閉館した大阪・茶屋町のミニシアター「テアトル梅田」。そこで起こった数々の出来事や関西における映画館の移り変わりをたっぷり詰め込んだMEG推しVOL.02イベント『「テアトル梅田 さよならトークイベント」~32年の思い出と、これからのミニシアターについて~』が、9月22日大阪・関西大学梅田キャンパス KANDAI Me RISEで開催された。テアトル梅田の宣伝担当、瀧川佳典さんの呼びかけで集まったのは、関西の映画史を彩るキーマンばかり。懐かしの映画館の話題や、あの大ヒット作の快進撃、その舞台裏ではどんなことが繰り広げられていたのか、さまざまなエピソードが語られたこのイベントをレポート!
■関西ミニシアターの先駆け、あの劇場の元支配人が登壇!
今回のイベントは9名のゲストがそれぞれの思い出を持ち寄り、テアトル梅田はもちろん、関西の劇場の軌跡やミニシアターの未来について語り合うというもの。会場には、100人以上の観客が参加。懐かしの劇場や映画のタイトルが登場するたびに、大きくうなずく人が多く、思い出の掘り起こしイベントとなった。
まず最初に登壇したのは、1985年に開館した扇町ミュージアムスクエアの映画館元支配人・坂本潤也さんと、2001年に大ヒット作『アメリ』を宣伝した元株式会社ツインの矢部佐織さん。
当時の扇町ミュージアムスクエアは、「劇団☆新感線」と「南河内万歳一座」の稽古場が2階にあり演劇の聖地。記憶に残った作品のひとつとして、坂本さんは「『バタアシ金魚』ですね。映画館としては、90年ごろから上映の回数を増やしていった、その頃の作品です」と振り返った。
また、テアトル梅田が開館してのち、1996年から映画宣伝を担ってきた矢部さんは「テアトル梅田の上映作品を何本宣伝したのか数えてみたところ179本あったんです。『アメリ』はもちろんですが、『親指スター・ウォーズ』『いかレスラー』など会社に入って無我夢中でやっていたころの作品が記憶に残っています」。また『シュリ』などのアクティブな韓国映画が大ヒットしているなかで、あえて心温まる良作もあることを伝えたい!という思いから、イ・ジョンヒャン監督『おばあちゃんの家』を自社配給したことも語った。
■1990年、テアトル梅田が開館。ヒット作品が続々登場
話はテアトル梅田の開館へと進む。初上映作品は『白く渇いた季節』と『スイッチング・チャンネル』、その後モーニングショー、レイトショーも開始。95年以降『恋する惑星』『トレインスポッティング』『ムトゥ 踊るマハラジャ』といった歴代興行収入ベストテンに入る作品が続々登場した。今のように先売りシステムがなかったので、当日券を買うために列に並び、自由席に座るスタイルだった。
実は『恋する惑星』は扇町ミュージアムスクエアでも続映されていたそうで、ウォン・カーウァイ監督と金城武さんが来館、舞台挨拶まであったことを坂本さんが明言。興行収入も好調で「うちはこれで大変おいしい思いをさせていただきました。テアトルさんすみません!」と豪快に笑った。
1995年にテアトル梅田で働き始めた瀧川さんは、映画好きではあったものの、レイトショーなどのミニシアター特有の文化をここで初体験したそうだ。「夜遅い時間の上映にもかかわらず、お客様がたくさんいらっしゃる。こんな世界があるのだなと本当に驚いた」と言う。
■そして、大ヒット映画『アメリ』が公開!予想をはるかに超えた大化けムービー!
そして、2001年テアトル梅田の歴代興行収入第1位の『アメリ』が公開される。宣伝を担当した矢部さんは「当時、テアトル梅田では、初日の前夜祭でオールナイト、初日は朝から夜まで9回上映し、さらにその夜オールナイトをするというすごいスケジュールでした」と振り返る。会場からも上映回数の多さに驚きの声があがり、それを受けて瀧川さんは「『アメリ』の勢いは止まらず、結果204日上映しました。この作品、当初はホラー映画だと思って買い付けてきたところ、ふたを開けてみたら全く違った。それなのに、映画は大ヒットした、という面白いエピソードもありますね」と言うと会場は笑いに包まれた。
その後『アメリ』はミニシアター以外の劇場でもどんどん拡大上映を展開。矢部さんは、「ミニシアターでヒットした『アメリ』が新たな劇場で上映されることで、ミニシアターの構図を変えていったと言ってもいい。梅田にも大小多数の劇場がひしめき合った時代です」と、当時のアメリ旋風が思わぬ方向へと進んでいったことを解説。
ここで、1998年5月から2002年11月までテアトル梅田の5代目支配人を務めた松川さんからのビデオメッセージがモニターに映された。「『アメリ』はオールナイトに加え、2スクリーンで5週間も上映を行ったことを思い出します。缶バッジを作ったり、スタンプラリーを行ったり。ムック本もよく売れました」と当時を振り返った。
そのほか、磯村一路監督、田中麗奈主演の『がんばっていきまっしょい』が上映にこぎつけるまでの裏話も披露。最初は上映する予定がなかったが「非常に誠実で感動的な作品だったので、ぜひ観てほしいとスタッフにもすすめたんです。すると瀧川君が観てくれて、うちでもやりたいと言ってくれた」と話す。瀧川さんは「当時を思い出して、泣きそうになりました」としみじみ。ビデオは瀧川さんが撮影してきたもの。さまざまな記憶がよみがえったに違いない。
その後、2002年に『ピンポン』が公開、こちらは歴代興行収入第5位になった。また、2006年には細田守監督の『時をかける少女』を公開。それ以降、アニメ作品も積極的に紹介していくようになる。こうしてテアトル梅田は、さまざまなファンを取り込みながら、大阪のミニシアターを牽引するリーダーとなっていった。
■最新システムの登場や、シネコンの登場に翻弄されるミニシアター
続いて登壇したのが、映画宣伝パブリシストとして活躍する菅野拓也さんと、心斎橋パラダイスシネマや梅田ガーデンシネマの支配人として映画館の移り変わりに身を置いてきた伝説の支配人、松本富士子さんだ。
菅野さんは、劇場「心斎橋シネマ・ドゥ」で映画人生をスタート。「テアトル梅田と拡大上映した『ピンポン』が歴代興行収入第1位で、連日満席が続き、グッズも飛ぶように売れました」と当時を語る。
また、心斎橋シネマ・ドゥはソニー系列の劇場で、35ミリフィルムではなく、ソニーが開発した「デジタルベータカム」を使ってのデジタル上映を行っていた。「データさえ作ってあれば、フレキシブルに上映できていた」と言い、フィルムからデジタルへと移り変わるなかで、オリジナルの強みを発揮した新たな劇場の現場を語った。
それを受けて松本さんも、「梅田ガーデンシネマは、テアトル梅田に憧れて、追いつけ追い越せでやっていましたね。それは、大阪のほかのミニシアターさんも同じだと思います。劇場として一番観客を動員したのはロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演作の『ライフ・イズ・ビューティフル』。当時のアカデミー外国語映画賞などを受賞して日本でも大注目。ゴールデンウィークから公開して、終わったのが秋口だったので、今では考えられないようなロングランでしたね。邦画では、癒し系の金字塔とされる『かもめ食堂』が人気で、良い時代でした。また、是枝裕和監督や西川美和監督とのご縁をいただいて、このお二人の作品は梅田ガーデンシネマで行うことが多かったです」と思い出を振り返った。
それでも劇場は2014年2月に閉館。「閉館が決まると、お客様や監督さんや俳優さんから、たくさんのお声を頂戴したので感無量でした」と続けた。
■シネコンが都市部に続々登場で、ミニシアターの過渡期に!
さらに松本さんは、「2007年ごろから、シネコンが都市部にでき始めて、ミニシアターを含む映画館の興行形態ががらっと変わった過渡期だったと思うんです」と、当時の様子を話す。2011年の1月に梅田ピカデリーが閉館、5月に大阪ステーションシティシネマが開館して「いわゆる既存館がなくなり、シネコンに変わった時期。本当に時代が大きく変わったなと実感しました」。
矢部さんが「邦画はよく入るのですが、洋画が入りにくくなった」と言うと、松本さんも「ミニシアターの黄金期は良質な洋画が主流だったのですが、良質なだけではお客様に来ていただけない時代になった。作家性のある監督の名前でも呼び込むのは難しかったですね」と付け加えた。
続いてモニターに映されたのは9代目の支配人、山内さんからのビデオメッセージ。2008年の4月から8年間テアトル梅田を引っ張った人物だ。たくさんの思い出の中から2009年のロビーの改装を担当したことをあげ、明るい木漏れ日が差すような空間をコンセプトに「日曜日のレイトショーを終えてすぐ改装にとりかかり、5日間24時間体制で工事を実施。レイアウトから予算、設計まですべてに関わったので、大変だった思い出があります」と話した。さらに「僕が在籍する少し前から、シネコンの進出や心斎橋、難波にもスクリーンが増加。その後、梅田にも劇場が出来て、変化が大きかったですね。デジタルに移行したり、商業施設の再開発などで人の流れも変わりました。テアトル梅田は残念ながら閉館してしまいますが、紡いできた歴史や思いは今後シネ・リーブル梅田で受け継いでいきたい」と語った。
また、2011年は東日本大震災があった年。関西などローカルな地域に対しての宣伝費も減ってしまった。「関西の媒体が、東京の記事を流用することが多くなった」と矢部さんも変化を実感。次への展開を模索する時間が続いた映画業界だったが、「そんななかで大ヒット作が出ると、劇場としてはほっとしますよね」と松本さんが問いかけた。それが、テアトル梅田の歴代興行収入第3位、2016年公開の片渕須直監督『この世界の片隅に』だった。
■『この世界の片隅に』は287日連続上映を記録
ここで、この作品の上映に真っ向から向き合った10代目の支配人、古野紀代子さんが登壇。「入社したころによくミニシアター黄金時代の話を聞いていたのですが、そんな体感をしたことがなかったんです。でも『この世界~』の上映が始まった時『映画ってここまでお客さんが入るんだ!』と驚きました」と古野さん。
この作品は2時間9分という長編アニメ。だからこそ、上映時間の確保が一番の悩みだったそうだ。次々と新作が到着する中、とにかく続けたい、と本社に掛け合いながら上映を継続。通常は行わない早朝や夜の時間を使って1日も欠かさず上映した結果、287日という最長ロングランが実現することになり、いつしかテアトル梅田は『この世界の片隅に』のファンから西の聖地と呼ばれるように。「片渕須直監督には何度もイベントに来ていただいて、本当にありがたい作品でした」と振り返った。
■ファンのパワーが劇場の空気を変えた!?
そんな古野さんが、在職中に実感したのはファンのパワー。『セトウツミ』や『ディストラクション・ベイビーズ』は関西出身の俳優・菅田将暉のファンが多数詰めかけ「女子高生がたくさん映画を観に来てくれて、館内の空気が普段とは違いました。ミニシアターに来るのが初めてという方も多かったように思います。特に『セトウツミ』は、劇場が笑いに包まれて、終わったあともみんな笑顔になって。見ているこちらも幸せでした」。ファンのチカラが劇場のムードを変えることを実感した1本となった。
■映画とドラマはどう違う?サブスクの影響は? ミニシアター、映画の未来を考えてみよう!
ここで、新たなゲストを迎えて、ミニシアターと映画の未来を考えるコーナーへ。
新登壇者は塚口サンサン劇場の戸村文彦さん、パルシネマしんこうえんの支配人・小山岳志さん、シネ・リーブル神戸の支配人・多田祥太郎さん、映画の宣伝を行う樋野香織さんの4人。
塚口サンサン劇場といえば、絶叫上映や応援上映などさまざまなイベント上映で全国に名を馳せる名物シアターだ。「すべてはお客様に映画館へ足を運んでもらうためのきっかけのひとつ。映画だけでお客様に来てもらえる時代は終わってしまったと感じているので、映画館の強みをいかして、映画以外のことで映画の良さを感じさせることはできないかと思い、イベント上映をやっています」と戸村さんは返答した。
さらに、「それによって、久しぶりに大きなスクリーンで映画を観た、面白いな、と劇場に通ってくださる方が増えた。うちは、映画館であることをいったん忘れよう、お客さんと一緒におもしろいことをやって行こう!そして、映画館を好きになってもらいたい。そう思いながら活動しています」と続けた。
神戸の新開地で52年続く名画座の支配人を務める小山さんは、映画サロンのお茶会など新しい取り組みを実施。「1スクリーンで2本立て。コロナ禍で状況は厳しくなってきたけれど、2本立ての前にモーニングショーを行ったりしています」と小山さん。自身の映画館を紹介しながら、次の映画館を指名する「映画館のリレー」という取り組みも話題になっており、Twitterを賑わせている。
シネ・リーブル神戸の多田さんは、シネ・リーブル梅田でも支配人を経験した人物。関西のテアトル系列の今後を担う人材だ。そして、樋野さんはテアトル梅田最後のロードショー『よだかの片想い』の宣伝を担当している。
ドラマと映画がどう違うのか、というテーマに対し、「映画というのは、先ほども『セトウツミ』で話題に出たように、共感だと思う。同じ時間を同じ空間で共有する、楽しかったねと笑って映画館を出てくるあの時間の共有は、映画館でしか体験できないと思う」と菅野さんが言うと、同じく映画宣伝を行う樋野さんも「私も共感だと思いますね。同じ空間での映画体験。パソコンなどのモニターで観るよりも、スクリーンで観たほうが記憶にも残るし、SNSで感想をつぶやくことも、やはりみんなで想いを共感するためにあるのでは?」と続けた。
最近では、ネットフリックスなどのサブスクリプション(サブスク)で映画を観る人も増えている。環境さえ整えばパソコンやスマホで好きな時に映画を観ることができる時代。
戸村さんは「ネットフリックスが出てきた時、『なんて良い時代なんだ!』と思ったんです。過去の名作がこんなに手軽に観れるんだと。だったらどんどん観てください、そして映画に興味を持って!と。僕は、絶対にこれを追い風にできる!と思った」と言うと、小山さんも「最初は意識していましたが、うちは名画座なので上映作品はすでに配信しているものもある。だから、あまり影響は感じませんでしたね。とにかく映画を観てもらい、次に関連作品を上映する時にぜひ劇場にきてほしい。どこでどんな方法で映画を観るにせよ、映画を人生の中に組み込んでもらえたら」と続けた。
また、コロナ禍で自宅に巣ごもりしたことで、ネットで久しぶりに映画を観た、という人が多かったことも話題に上った。「自分が昔、映画をよく観ていたことを思い出す大人世代も多かったのでは?」と戸村さんは言う。「だから劇場で80年代、90年代の作品をかけてみたんです。すると、今まで来なかった世代がたくさんやってきた。そういう人たちが『トップガン』のリバイバル上映や最新作の『トップガン マーヴェリック』を観に行ったのだと思う。それなら、サブスクとは敵対せずに映画館がのっちゃえ!と。その方が絶対に良い関係になると思ったんです。映画館で映画を観ると時間も場所も拘束される、途中でやめることも難しい。だからこそ、自分がいかにその映画をポジティブに楽しめるのか、それもまた、映画の楽しみ方のひとつだと思います」と話した。
劇場支配人を経て、現在は映画のプロモーションを手掛ける古野さんも、「映画に必要なのは、圧倒的な体感」だと言う。「3D や4Dではなく、映画そのものから伝わるチカラとみんなが同じ画面を見ているあの感覚。それを体験し、シェア出来るからこそ『トップガン マーヴェリック』は大ヒットにつながったと思う。映画にはまだまだパワーがある。でもそれには、圧倒的な体感ができる作品があることが大前提。ずっと長くお客様に来てもらうという点では別の仕掛けが必要になる。私もそこはいつも模索しています」と力強く話した。
大人世代の話がでたが、一方、20代前半の若い世代はどうなのか。「おでかけのひとつとしてシネコンに行く機会はあるが、ミニシアターにはなじみが少ないことを実感している」という声が菅野さんからあがった。「シネコンならチケットを買う方法がわかるけれど、自分でミニシアターに行ってチケットを買う方法がよくわからないという人もいる。それも先ほど戸村さんがおっしゃった、すべてのお客様に足を運んでもらうための工夫をすることなのかな思います。ミニシアターの敷居を飛び越える施策を考えて行かないといけないなと実感しています」。
現役支配人の多田さんは、「ネットフリックなどでは、映画を観ている人よりもオリジナルのドラマなどを観ている人のほうが多いのではないかと感じている。オリジナルコンテンツを観ることに精一杯で、映画館へ新作を観に行く時間がないのかも。過去の映画はアーカイブとしてそこに並んでいるだけの様な気もするので、それなら、こういう映画がありますよ、と監督の特集上映を組むなどして、映画館で提示するのが良いかもしれません。それは、映画館にとってチャンスなのでは」と述べた。
それを受けて瀧川さんも「テアトル梅田ではここ2年ほど、レトロスペクティブを数多く上映してきました。その中で感じたのは、作品の奥深い魅力をお客様同士で伝え合っていただける映画サロンのような場を提供することも大切だということ」と続けた。
古野さんも、「監督特集などのパッケージで提示していくことは一つの方法だと思いますね。昔劇場で働いていた時、1週間限定のレイトショー作品なのに、なぜこんなに若い人たちが来てくれるのだろう、と思うことがあったんです。すると「ここでしか上映されていないので来ました」と。若い世代はスマホでマップ検索が出来るので、映画館の場所が分かれば来てくれる。さらに、その映画館でしか観ることのできない独占性のある作品があれば、若い世代を取り込むための強みに出来るのかなとも思います」と締めくくった。
最後、会場にはテアトル梅田を振り返る約5分のムービーが流された。そこには、過去に上映された作品のチラシや名場面、みんなを迎えてくれた明るいロビー、名物の外階段など、劇場の日々と思い出をたどるたくさんの瞬間が詰まっていた。
30周年を迎えたその日はコロナ禍で休館中、映画館を愛してほしいという思いを携え、コロナ禍で何度も足止めされながらも出来る限り続行した映画サロン“しねまぼっこ”など、たくさんの出来事がよみがえる。
映像のバックに流れたBGMのタイトルは『You Were There』〝あなたはそこにいた″。この言葉が、テアトル梅田を愛したすべての人へ、劇場からの最後のメッセージとしか思えない。
『You Were There』。
映画ファンの人生に寄り添い、さまざまな文化や人間の喜怒哀楽を体験をさせてくれたテアトル梅田。32年間、いつも変わらず「そこ」に居させてくれて、ありがとう!
迎え入れてくれてありがとう! そして、たくさんの感動をありがとう!
こうして、温かく大きな拍手に包まれながら2時間のイベントを終えた。
◎取材・文/田村のりこ