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映画「108 海馬五郎の復讐と冒険」が10/25(金)から全国公開されます。
今回は監督・脚本・主演を務めた松尾スズキの会見レポートをお届けします。

松尾スズキが大人計画を旗揚げしたのは1988年で昨年30周年を迎えた。宮藤官九郎や阿部サダヲをはじめ才能豊かなメンバー達は、松尾と同様にそれぞれ多岐に渡って活躍しています。そしてこの映画は松尾にとって4本目の長編映画で、今回初めて監督・脚本・主演の全てに挑みました。

松尾:本番に入る前に1ヶ月くらいリハーサル期間を作りました。監督を務めながら主演をするわけなので、主に僕の場面の練習です。あとはローションのシーンを実験してみたり。監督・脚本・主演と兼ねましたが、本番中はゾーンに入っているというか、すごく忙しい定食屋の店員さんのオペレーションみたいな感じでしたね。ギュッと集中していて、何かをしながら次の段取りが頭に入っていて自然と手が動いているような。大人計画では演出をしながら出演するのがよくあることなので、その辺は結構身についているんです。あと、あまり時間がない中での進行だったんですが、キャストやスタッフのみんなが僕のシナリオが面白いって褒めてくれて、そのことがこの映画を作るに当たって精神的支柱になっていたと思います。


                                   スタイリスト:安野ともこ(コラソン)

そのストーリーとは、SNSで妻の浮気を知った中年の男が、その妻の投稿についた108の「いいね」の数だけ女をを抱いて復讐するというもの。R18指定のコメディである。

松尾:このプロットを書いたのが50才になる頃で、ちょうど再婚も決まっていました。この歳で結婚する意味ってあるのかな?と思ったり、妻も若かったから将来のことも考えたりもするし。そういうこと色々が重なって、この話が出来ていったんだと思います。R18指定だから激しいシーンがどうしても取り沙汰されるし話題にもなるんだけど、大人の恋愛事情の悲喜交々といったところも読み取って欲しいと思いますね。ラストではそれを感じてもらえると思います。

またこの映画には松尾スズキの喜劇人としてのこだわりも沢山盛り込まれています。ミュージカルシーンもあり、主人公である松尾がスクリーンの中で焦り、縦横無尽にのたうち回るドタバタコメディに仕上がっている。体力的にも限界に挑んだ内容になったようです。

松尾:撮影が朝から深夜まで続くのがほとんどで、後半は走るシーンでも足が上がらなかったり。もう少しカッコよく走るはずが「ワザとですか?」ってスタッフに言われて情けなくなったけど、それもある種のリアリティを与えているんだと思います。僕も中年クライシスというのを感じてはいるけれど、どうしてもこの映画は実現したかった。往年の喜劇人たち、チャップリンやキートン、メル・ブルックスがそうしたように、自分で考えて自分が一番面白くなるように書く、それを自分が演じる。それを映画でやっておきたかったんです。

キャストは妻役に中山美穂。そして脇を固めるのは劇団「ハイバイ」主宰で第57回岸田國士戯曲賞を受賞している岩井秀人、第36回紀伊國屋演劇賞ほか多数受賞の秋山菜津子の好演が目を引きます。演劇人・松尾スズキならではの目線で個性的な俳優陣を配し、映画でなければ実現できないスペクタクルなシーンもトラウマになるくらい心に残ります。


10/25 FRIDAY〜 全国ロードショー
映画「108 〜海馬五郎の復讐と冒険〜」
◎監督・脚本・主演:松尾スズキ
◎配給・宣伝:ファントム・フィルム
◎製作:「108 海馬吾郎の復讐と冒険」製作委員会



映画「ダウトー嘘つきオトコは誰?―」が10/4(金)から全国公開されます。原作は、ボルテージ『恋愛ドラマアプリ』シリーズとして2015年から配信がスタートした「ダウトー嘘つきオトコは誰?―」。従来にない“謎解き”と“恋愛ストーリー”の要素をミックスしたコンテンツで、女性向け恋愛アプリゲームとしては異例の400万DLを超える大ヒットを記録しました。婚活パーティーに参加したヒロインが、会場でさまざまなタイプのハイスペックな10人のオトコからアプローチをされるが、その中の9人は嘘をついている。オトコたちの嘘を見破りながら、ヒロインが真実の愛を見つける。


主演はCanCamの専属モデルとして活躍しながら、人気バラエティ番組「世界の果てまでイッテQ」の出川ガールズとして人気を獲得した堀田茜。ドラマ「トドメのキス」、「3年A組 ―今から皆さんは人質ですー」などにも出演し、女優としても注目を集めています。本作は映画初主演。

堀田:自分に務まるのか不安で、現場に入るまでにセリフを絶対に間違えないように覚えようとしました。でも現場に入ってみると、そこまでセリフもガチガチに固めないほうがよかったのかなと思ったりもして。あと、主演ですから周りの人たちに「ちゃんとやることやってるな」って思ってもらいたくて、皆さんを引っ張っていくくらいの気持ちで臨んだんですが、やはり経験豊富な方々に助けて頂くことだらけでしたが、楽しく3週間の撮影期間を過ごしました。

また、自身が演じる主人公の桜井香菜(さくらい かな)については、

堀田:台本を読んで、素の私に近いキャラクターだなと思いました。読んでいて共感する部分も多かったですし、明るいところや素直なところ、芯の強さを感じさせるところなど、共通点がたくさんありました。年齢が近いこともあって、結婚に対する考え方や恋愛に臆病なところも良く似ています。永江監督からも、ありのままで演じてくれればいいと言われて、自分が思い描くヒロイン・香菜を作っていこうと思いました。10人のオトコの嘘を見抜いていくという、説得力も必要かなと思い、衣装やメイクもスタッフさんと相談して進めていきました。


そして原作でも人気キャラクターでもあるヒロインと同い年の好青年、唯川至(ゆいかわ いたる)を演じるのは稲葉友。2018年に映画「N.Y.マックスマン」、「私の人生なのに」、「春待つ僕ら」に出演、ドラマ「平成ばしる」(テレビ朝日)で民放ドラマ初主演。2019年も話題作に立て続けに出演しながら、6月には鄭義信演出の舞台「エダニク」で堂々の主演を務めた。稲葉が演じる唯川は、10人のオトコの中では真面目で地味だが、気さくな性格でヒロインとすぐ打ち解ける。

稲葉:唯川至は原作ですごく人気のあるキャラクターだということで、まいったなぁと(笑)。ファンの方が持っている唯川像にあまり寄り添ってしまっても、僕はアプリの唯川に勝てないなと思ったんです。でも、唯川って結構クレイジーなオトコなんですよ。小学校の頃の感情を心に抱き続けて、香菜に見合ったオトコになろうと様々な努力をし続けるんです。その努力って報われる保証なんて何もないんですよね。現実にもそういう人ってたくさんいると思う。唯川は、見た目と違って全然冷静じゃないというか、内実の回転数がすごく早い熱いオトコなんです。映画では、普段はその熱さを感じさせないように気をつけて、要所で意外性を発揮できるように工夫しました。

稲葉のほか、9人のオトコもそれぞれに活躍する人気キャストが揃った。「仮面ライダーゴースト」の西銘駿、「JAPAN MENSA」会員でクイズバラエティでも活躍する岩永徹也、「仮面ライダー鎧武」の久保田悠来のほか、佐伯大地、三津谷亮、藤田富、水石亜飛夢、牧田哲也、永山たかしと話題のキャストが集結。そして謎の占い師役で出演する鶴見辰吾が、貫禄の演技で場を引き締めます。

10/4 FRIDAY〜 全国ロードショー
映画「ダウト ―嘘つきオトコは誰?―」
◎原作:ボルテージ「ダウト〜嘘つきオトコは誰?〜」
◎脚本:鹿目けい子
◎監督:永江二朗
◎配給:キャンター/スターキャット


神奈川県民ホール大ホール、愛知県芸術劇場大ホール、札幌文化劇場 hitaruの三つの劇場で上演される、神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2019『カルメン』の記者懇談会が、9月末、東京都内で開催された。


演出:田尾下哲

今回演出を担当するのは、オペラのみならずミュージカル作品なども手がける田尾下哲。『カルメン』は、演出アシスタントやホール・オペラ、ハイライトなどを上演してきたが、本格的に作品を演出するのはこれが初めてだとのこと。その彼は、21世紀の今日、この名作オペラを上演するにあたっての二つの問題点を指摘した。まず一点は、この作品における「ロマ」の人々の描き方。ヒロインのカルメンは性的に奔放なジプシーの女性として描かれているが、「ロマの人々は自らをジプシーとは呼んでおらず、他の人々による呼称に過ぎない。また、実際には、(カップルは)一生涯添い遂げると聞いた」とのこと。二点目は、エスカミーリョの闘牛士という職業について。「今日においても闘牛士が存在することは事実だが、動物をいじめ、殺す、野蛮なショーを楽しむということは、21世紀においては看過できない」。この二点を解消すべく、「私の師匠である演出家ミヒャエル・ハンペとも相談した上で、21世紀のアメリカのショービジネスの世界に置き換えて上演することにしました」。すなわち、バーレスクのクラブに出演していた無名のカルメンが、オーディションを受けてブロードウェイの舞台に進出するも、業界の大物に干されてサーカスでドサ回り、しかしながらハリウッドの大スター、エスカミーリョに見出されて銀幕のスターになるというのが今回の演出コンセプト。終幕はアカデミー賞のレッド・カーペットのイメージになるというから興味津々だ。
 もう一点、田尾下が指摘したのは、作品における指輪の扱いについて。終幕、エスカミーリョと共にやって来たカルメンは、もらった指輪をホセに投げ返すが、「元カレの指輪を持っていたりするのかどうか。今回、指輪の行方もていねいに描いているので、注目してほしい」そうだ。


カルメン:加藤のぞみ(メゾソプラノ)

続いて挨拶したカルメン役の加藤のぞみ(アグンダ・クラエワとダブルキャスト)は、今回がロール・デビュー。「夢の夢のまた夢だった役で、藝大生だったときからいつか歌いたいと思っていました。イタリアで勉強した後、移り住んだスペインでは、ロマが海辺で歌い踊る姿に遭遇することも多い。今回やっとカルメンができる! と思ったのですが、ショービズで行きますと言われ、あれ? と。稽古初日はまずダンスから始まり、正直とまどいがあったのですが、『カルメンは絶対あきらめない』との田尾下さんの言葉を聞いたとき、腑に落ちるものがあった。イタリア、スペインで悔しい思いをしてきた、その闘争心は役柄に活かせると思うので、新しいカルメンを作っていけたら」と抱負を述べた。


ドン・ホセ:城宏憲(テノール)

ドン・ホセ役を務める城宏憲(福井敬とダブルキャスト)は、「一幕から四幕まで詳しく稽古がつき、全貌が見えてきた。(田尾下)哲さんとの仕事は二、三回目になるが、僕が新国立劇場でイギリス人の講師に教わったこと、すなわち、歌を感情から、動きからと多角的に解釈するということをまさに求める演出家だと思う。今回も、ダンスをはじめ、のけぞる、這いつくばるといった動きも入っていて、身体表現としてもとても魅力にあふれている。ドン・ホセは、話の渦の中心にはいないが、カルメンの生き様を見せる影。話的にはカルメンの足を引っ張るけれども、どこまでもカルメンを支えたいと思っている。ダンスのシーンはないが、ピエロの姿になったりする場面があるので、新しい要素を加えて作っていきたい」と、新演出への意気込みも高い。

“ショービズ”『カルメン』のアイディアはどこから? との問いに、田尾下は、作中の歌についての分析を披露。ドン・ホセの「花の歌」、ミカエラのアリアなどは登場人物が心情を吐露する曲として歌われるものだが、カルメンが酒場で披露する「ハバネラ」はあくまで歌手として歌っているものであり、最終的には皆と大合唱になるエスカミーリョの「闘牛士の歌」も、「初めてこの作品を観た人にとっては歌手が歌っているように見えると思う。そこで、エスカミーリョが大スターとして歌を歌っているということがおかしくない設定を考えた。映像、舞台、ミュージカルに出演し、プロデュースも行なう、ヒュー・ジャックマン的なイメージ」と、斬新なコンセプトの源を明かす。作中登場する「闘牛士」や「兵士」といった言葉については、あだ名として扱うとのこと。
 各場面のヴィジュアル・イメージ、イメージ・ソースについてだが、バーレスクの場面については『NINE』や『シカゴ』の雰囲気で、黒の下着のコスチュームも登場するとか。ブロードウェイの場面は『ムーラン・ルージュ』の雰囲気で、チャールストン・スタイルも登場。サーカスの場面は、「世界ツアーに出始める前のシルク・ドゥ・ソレイユ」というから設定が細かい。終幕のレッド・カーペットの場面には、メット・ガラのイメージも重ね、レディー・ガガの衣装も参考にしているという。
 カルメンは21世紀の女性にとって感情移入しやすいキャラクターと思われるが、ドン・ホセについてはどう考えるか? との質問に対しては、田尾下は「一途でプライドの高い男だけれども、カルメンにとっては何者でもない。カルメンはビッグ・スターと結婚すべき。ドン・ホセは足を引っ張るタイプの男で、カルメンにとってはよくないタイプ」とバッサリ。「さきほど、カルメンを支えたいと言ったけれども」と城が反応すると、「迷惑」とまたまたバッサリの田尾下、そんな二人のやりとりに笑いが起きる。
 カルメンが発する「自由!」の一言について尋ねられた加藤は、「カルメンは高みに行きたい人。ドン・ホセが自分を愛する姿がすごく邪魔になる。その彼の『花の歌』を聞いていてふっと女性に戻る弱さ、ある種の決意をする様を見せたい」と語る。田尾下によれば、この場面は、スターダムにのし上がった自分の姿をカルメンが夢想するが、ドン・ホセには見えないという演出になるとのことで、『シカゴ』の「ロキシー」のナンバーをも思わせるシーンとなりそう。オペラ・ファンのみならず、ミュージカル・ファン、映画ファンにも大いにアピールしそうなこのプロダクション。初日の幕が上がるのを心待ちにしたい。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

◎指揮/ジャン・レイサム=ケーニック◎演出/田尾下哲
◎出演/
カルメン:加藤のぞみ(11/2)/アグンダ・クラエワ(11/3)
ドン・ホセ:福井敬(11/2)/城宏憲(11/3)
エスカミーリョ:今井俊輔(11/2)/与那城敬(11/3)
ミカエラ:髙橋絵理(11/2)/嘉目真木子(11/3)ほか
合唱:二期会合唱団、愛知県芸術劇場合唱団
児童合唱:名古屋少年少女合唱団
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団

<公演情報>
11/2 SATURDAY・3 SUNDAY 【チケット発売中】
グランドオペラ共同制作
ビゼー作曲『カルメン』
(全4幕/フランス語上演・日本語及び英語字幕付き/新制作)
◼️会場/愛知県芸術劇場大ホール
◼️開演/各日 14:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥15,000 A¥12,000 B¥9,000 C¥6,000円(U25 ¥3,000) D¥4,000円(U25 ¥2,000)プレミアムシート¥20,000
※未就学児入場不可。託児有(有料・要予約)
※U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)



映画「惡の華」が9/27(金)から全国公開されます。原作は累計発行部数300万部を記録する押見修造の代表作であるコミック。押見作品はこれまでにも「スイートプールサイド」や「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」など、映画化が続いています。「惡の華」は2013年にTVアニメ化、2016年には舞台化もされています。監督は「片腕マシンガール」や「電人ザボーガー」などカルト&ファンタスティックな作品を作り続ける井口昇。今回は公開に先立って名古屋市のTOHOシネマズ名古屋ベイシティにて行われた舞台挨拶をレポートします。挨拶には主人公の春日高男役の伊藤健太郎と、春日の人生観に決定的な影響を与える仲村佐和役の玉城ティナが登壇しました。


思春期特有の鬱屈とした感情を題材にした「惡の華」。監督の井口昇は原作を数ページを読んだだけで「この作品を映画化するために、映画監督になったのではないか」という直感と衝撃を受け、自ら実写化に向けて奔走したとのこと。片や原作の押見修造は「井口監督に『惡の華』を撮っていただくことは、長年の夢でした」とコメントしており、その相思相愛ぶりが伺えます。構想から7年。井口と押見はお互いにディスカッションを重ね、ストーリー展開からセリフなど脚本の細部に至るまでこだわったそうです。11巻ある原作は<中学生編>と<高校生編>から構成され物語は時系列に進んでいくが、映画では高校生編で始まり中学生編を回想していくという展開。絶対に外せない原作のディテールを再現しながら、映画ならではのダイナミックな描写が功を奏した、刺激的で良質な青春グラフィティに仕上がっています。

―この映画のキャストに起用されたことについて
伊藤:井口監督の作品に出演させて頂くのは2回目です。監督やプロデューサーの方から、この映画が構想から7年ほどかけて練られた作品だとお聞きして、そんな作品に出演させて頂けることが嬉しかったです。プレッシャーというよりは感謝の気持ちが大きかったです。
玉城:私は原作の漫画が大好きだったんです。その中でも圧倒的なキャラクターを持つ仲村の役を私に託して頂いてとても有難かったです。過激なセリフや描写にもチャレンジしていきたいなと思いました。

―監督がこだわった「ブルマを嗅ぐシーン」について、
伊藤:家族が観たらどう思うだろうかと心配です(笑)。ただ、ここは映画「惡の華」を象徴するシーンでもあり、監督には「ブルマの分子まで吸い取るくらい嗅ぎとってくれ」と言われました(笑)。
玉城:雨のせいでこのシーンが撮影初日のファーストカットになったんです。
伊藤:逆に春日というキャラクターを早く掴むきっかけになってよかったです。


―皆さんへのメッセージ
伊藤:僕らが本気で、全身全霊をかけて作った映画です。だから、どんな方々に観て頂き、どんな捉え方をされてどう消化されるのかが楽しみで仕方ないです。この作品は皆さんに観て頂いてからどんどん化けていくような、そんなパワーを持っていると思います。
玉城:原作の漫画もそうですが、中高生時代にこの作品に出会っていたら何か救われる部分があったかもしれないと、そう思わせる作品です。この映画を観て、皆さんの中に何か一つでも残るものがあれば嬉しいです。

ガールズ・スリーピースバンド、リーガル リリーの音楽も印象深い。映画の中で特に印象的な場面で流れる挿入歌「魔女」は押見修造の大ファンであったたかはしほのかが「惡の華」を読んでいた高校生の時に描いた楽曲。主題歌もたかはしほのかがコミックを初めて読んだ時の衝撃を元に書き下ろした新曲だとのことです。脚本は、アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などの岡田麿里。キャストは伊藤と玉城のほか、春日が憧れる佐伯奈々子役に、オーディションで井口監督が「佐伯を演じられるのは彼女しかいない」と言わしめた16歳の秋田汐梨。高校時代の春日が交流を深める常盤文役に飯豊まりえなどが名を連ねます。

9/27 FRIDAY〜全国ロードショー
映画『惡の華』
◎原作/押見修造「惡の華」(講談社『別冊少年マガジン』所載)
◎監督/井口昇
◎脚本/岡田麿里
◎製作/『惡の華』製作委員会 ◎配給/ファントム・フィルム
©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会


アメリカ人劇作家ルーカス・ナスの手による『人形の家 Part2』は、世界演劇史上に輝くイプセンの『人形の家』の、あっと驚く“後日談”。『人形の家』のラストで夫や子供たちと暮らす家を独り出て行くヒロイン・ノラの姿は、1879年の初演当時より、演劇界を越えて広く社会的論争を巻き起こしてきた。そのノラが出奔から15年ぶりに家に帰ってくるところから、『人形の家 Part2』は始まる。栗山民也演出による日本初演の舞台を観た(8月20日19時、東京・紀伊國屋サザンシアター)。


撮影:尾嶝 太

帰ってきたノラ(永作博美)をまず迎えるのは、乳母のアンネ・マリー(梅沢昌代)。アンネ・マリーはノラが出て行った後も家に残り、ノラの夫トルヴァル(山崎一)やエミー(那須凜)ら子供たちの世話をしてきた。ノラがアンネ・マリーに投げかける「あなた、私が何をしてたか知りたいんでしょう?」はそのまま、『人形の家』後のノラの人生をどのように想像しましたか? という、劇作家から観客への問いかけでもある。そして、ここでナスが提示するノラの“その後”は痛快さに満ち満ちている。ノラが選んだ生き方が、イプセンが『人形の家』を執筆する際にモデルとした女性の職業とも重なることを鑑みるに、今作が優れた『人形の家』論たり得ていることにも感服する。
さて、15年間、家族とまったく関わりなく生きてきたノラだが、困った事態――これも、『人形の家』での“困った事態”のリフレインである――が発生し、手助けを求めて帰ってきたのだった。アンネ・マリー、トルヴァル、そして、娘のエミーと、ノラは次々と対峙してゆく――言葉をもって。出て行った者。残された者。ぶつかり合う言葉から、それぞれの15年、それぞれの心情が描き出されていく。二人芝居が五場続くという今作の趣向が、優れた役者の演技を得て、一層のひりひりとしたスリリングさをもって客席に迫る。舞台装置もト書き上シンプルで、作中、大きな出来事が起きるわけでもなければ、物語上、何か仕掛けがあるわけでもない。ただただ、人間が人間と向き合い、己の存在を賭けて互いにぶつかり合うこと、その真理を尊び、休憩なし105分、一瞬たりとも見逃したくないと思うほどの濃密で緊迫感ある時間――それでいて、笑いの要素もきちんとあるところが、これまた人生を映し出している――を展開した、栗山民也の演出に敬意を表したい。今年上演された作品の中で三本の指に入る好舞台である。


撮影:尾嶝 太

永作博美のノラは実にチャーミング。このノラならば、絶望と孤独の果て、“転生”を経て、今あるような姿で凛々しく生きていることが非常に腑に落ちる造形である。一度舞台に出たらラストまで引っ込めないという過酷な役どころだが、役柄上要求される緊張感を途切れさせることのない力演を見せた。トルヴァルにも恋のお相手がいた――と知り、何とか笑いをこらえようとしながらもやはり笑わずにはいられない際の、ソファの上で転げまわる姿のかわいらしいこと。そのキュートさが、一人の人間として、自分の心のままに素直に生きようとするヒロイン・ノラの魅力を引き立てている。であるからこそ、終幕、ノラがまたしても固める覚悟、その壮絶さが、観る者の心にひときわ痛烈に突き刺さる。
 夫トルヴァルを演じる山崎一は、『人形の家』でのノラの劇的な出奔に対して脚光の当たることのない“出て行かれた者”の心情を、圧倒的な説得力をもって描き出す。彼が、「人といること」について「そんなに難しくなくちゃいけないのかな?」と途方に暮れたように吐露するセリフは、この社会にあって、他者と共に暮らして行かざるを得ない人間存在の根源に突きつけられた言葉でもある。こまつ座『父と暮せば』(2018)、『ハムレット』(2019、ポローニアス役)と素晴らしい舞台が続く山崎の名優ぶりが、本作でも堪能できる。
 ノラの母親的存在ともいえる乳母アンネ・マリー役の梅沢昌代も、生きていくことへのある種の老獪さをにじませつつ、年齢的にも世代的にも、ノラの生き方、考え方と相容れないものをもって生きる同性として、ノラと激しく相対する。娘エミー役の那須凜は、さばさばとした現代っ子ぽさが、ノラの次の世代の生き方、考え方を象徴し、示唆に富む。ノラとエミーの考え方の違いは、ミュージカル『マンマ・ミーア!』のドナとソフィ親子をも思わせるところがあり、実に興味深い。
 自分の心に嘘をつかず、あくまで正直に生きようとすること。そのためには、ときに世間と相容れなかったとしてもやむを得ない…との覚悟を決めて、己の闘いを、その生の限り続けていかなくてはならないこと。その美しさ。140年後のノラもまた、大いに物議を醸すシンボリックな存在である。

文=藤本真由(舞台評論家)


9/23 MONDAY・HOLIDAY 【チケット発売中】
舞台「人形の家 Part2」
◎作:ルーカス・ナス◎演出:栗山民也◎翻訳:常田景子
◎出演:永作博美、山崎一、那須凜、梅沢昌代
◼️会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
◼️開演/13:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥6,500 A¥5,000 B¥3,000 ほか
◼️お問合せ/プラットチケットセンターTEL.0532-39-3090(休館日を除く10:00〜19:00)