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『舟を編む』(13)で日本アカデミー賞監督賞を最年少で受賞、『生きちゃった』(20)『茜色に焼かれる』(21)では社会や理不尽な出来事に葛藤しながら向き合っていくエモーショナルな人間物語を描いてきた石井監督が、オール韓国ロケで生み出した新境地が『アジアの天使』。日本と韓国、言葉も違えば文化も違う2組の家族の気持ちのすれ違いやふれあいをコミカルに描きながら、強い絆を育んでいくロードムービーとなっています。第16回大阪アジアン映画祭のクロージング作品にも選ばれた今作、監督の来阪にあわせて行われた会見をレポートします。

妻を病気で亡くした小説家の青木剛(池松壮亮)は、8歳になるひとり息子の学を連れて、兄(オダギリジョー)の住むソウルへとやって来た。「韓国で仕事がある」という兄の言葉を頼っての渡韓だったが、いざ到着してみると、兄がいるはずの住所には、知らない韓国人が出入りしていて中にすら入れない。言葉も通じず途方に暮れるしかない剛は、自分自身と学に「必要なのは相互理解だ」と言い聞かせながら、意地でも笑顔を作ろうとする。
やがて帰宅した兄と再会できたはいいものの、あてにしていた仕事は最初からなかったことが判明。代わりに韓国コスメの怪しげな輸入販売を持ちかけられ、商品の仕入れに出向いたショッピングセンターの一角で、剛は観客のいないステージに立つチェ・ソル(チェ・ヒソ)を目撃する。元・人気アイドルで歌手のソルは、自分の歌いたい歌を歌えずに悩んでいたが、若くして亡くなった父母の代わりに、兄・ジョンウ(キム・ミンジェ)と喘息持ちの妹・ポム(キム・イェウン)を養うため、細々と芸能活動を続けていた。
そんな矢先、韓国コスメの事業で手を組んでいた韓国人の相棒が商品を持ち逃げしてしまう。全財産を失った兄弟に残された最後の切り札はワカメのビジネス。どうにも胡散臭い話だったが、ほかに打つ手のない剛たちは、藁をも掴む思いでソウルから北東部にある海沿いの江陵(カンヌン)を目指す。同じ頃、ソルは事務所から一方的に契約を切られ、兄と妹と3人で両親の墓参りへと向かうことに。運命的に同じ電車に乗り合わせた剛とソルたちは、思いがけず旅を共にすることになる。


―韓国で映画を撮るきっかけとなったのは、『ムサン日記〜白い犬』(10)のパク・ジョンボム監督が今作のプロデューサーを引き受けたことから始まったそうですが、パク監督との出会いは?

2014年の釜山国際映画祭で出会い意気投合したのですが、まさか30歳をすぎて親友ができるとは思ってもみませんでしたね。彼とは心に抱えている傷や痛みの話をよくしたんですよ、お互いにつたない英語で。言葉が不完全なので言語的に完璧に理解出来ていないはずなのに、なぜか彼の心が手に取るようにわかったんです。パク・ジョンボムも「なんで二人は仲がいいんだ?」と誰かに聞かれたら「前世で友達だったとしかいいようがない」と言っているそうで、まさにそんな印象なんです。元々この企画は別のプロデューサーと動かしていたのですが頓挫し、パク・ジョンボムが「あきらめるな」と言い続けてくれ、最終的に彼がプロデューサーを買って出てくれました。彼こそ最後の最後に僕の前に降りてきた天使みたいでした(笑) 実は今作にも役者として登場しています。


―タイトルに「天使」という言葉を使ったのはなぜでしょう。

「天使」という存在は、人それぞれに捉え方も違うし、信じる人もいれば信じない人もいる。そういう扱いきれないもの、つまり言葉にならないものとしての存在が、偶然のように、奇跡的に人間同士を結びつけるのは面白いなと思いました。


―日本人キャストとして、自由な兄にふりまわされる青木剛役に池松壮亮さん、マイペースでオープンマインドな兄の透役にオダギリジョーさんを起用されました。

池松君とは、以前韓国に遊びに行ったことがあります。パク・ジョンボムと一緒になって、みんなでキャッチボールをして、ビールを飲みまくるような旅ですが(笑)、たぶん韓国で映画をやることになるんだろうなと、彼はどこかでわかっていたと思うんですよ。撮影中も、オダギリジョーさんと池松君という天才役者二人が、韓国という異国の地でかみ合うことのない兄弟の会話を繰り広げる姿を見ているのは、とても面白い経験でした(笑)。韓国スタッフも日本語がわからないのにクスクスと笑っていて。それに、キャストも仲が良くて。後半に登場する海辺の町での撮影は合宿だったので、よくみんなでビールを飲んだり、浜辺で遊んだりしてましたよ。


―映画『金子文子と朴烈』(17)で日本人の主人公・金子文子役を鮮烈に演じたチェ・ヒソさんをソル役にキャスティングした決め手は?

この年代の女優さんを探していた頃、すでに日韓問題は最悪の状態で、日本と共に行うプロジェクトには「出られません」という返答も多かったんです。そんな状況でも、彼女には色眼鏡みたいなものがまったくなかった。〝面白いことをやりたいんだ″という意思の強い人で、日本語も話せますから、それじゃあチャレンジしましょう、ということになりました。とても志が高く聡明で、全身全霊で映画に向き合う人です。


―都会・ソウルでの重い現実を背負った二組の家族の物語は、後半、トラックを使って海辺の田舎町へと旅をするロードムービーへと変化していきます。トラックでの撮影は大変だったのでは?

6人が一つのトラックで旅をするシーンは、役者以外にもカメラマンなどのスタッフが乗り込んでの撮影でした。現場は韓国スタッフが95%以上でしたが〝わからないことを楽しんで良いものを作ろう!″という人たちが集まっていたので、現場の雰囲気は最高に良かったです。


―韓国と日本で撮影システムの違いなどはありましたか?

例えば夜のシーン。日本では暗幕で窓を塞いで昼間でも撮ってしまうのですが、韓国では夜のシーンは夜に撮りたい!と。確かにそうですよね。夜のシーンは夜に撮る。そういう違いも面白いじゃないですか。食事の場面でも「飲んでいるシーンは本当にビールを飲みたい」と韓国の俳優陣は言っていましたしね。ノンアルコールでやるといったら「そんな現場は初めてだ」と兄役のキム・ミンジェはちょっと不満顔でした(笑)が、撮影が終わったら、やっぱり酒を酌み交わす。ビールに関しては四六時中、飲んでました。


―劇中でも「この国で必要な言葉は、メクチュ・チュセヨ(ビールを下さい)とサランヘヨ(愛しています)だ」とオダギリさん演じる兄が言っています。これまでの話を聞いていると、監督の実体験から生まれたセリフなのでは?と思えました。

韓国ではシックと言うそうなんですが、ご飯を一緒に食べる人、一緒に食べたら友達だ、家族だという文化があるみたいですね。それが今作の「家族のようになる」テーマにもつながっています。韓国で誰かとビールを飲んでいると、知らない間にどんどん人が増えていくし、何軒もはしごするんですよ。次はタッカルビ、その次はカルビタン(カルビのスープ)と店を変えながら食べては飲む。僕はこれまでそういう経験を繰り返し、韓国の人たちと心を通わせてきました。それに、韓国の俳優さんは、みんなよく食べるんです。女優さんであろうとバクバクと。それが本当にすがすがしい!素敵だなぁと思って見ていました。


―共にご飯を食べて交流を深めるけれど、追いつかないのが言葉の壁。言いたいことがダイレクトに伝わらないもどかしさをどう乗り越えていくのか。それも物語の重要なエッセンスになっていますね。

本心みたいなものに言葉ではたどりつけなくて。だけど、たどり着けないその先にある本当の感情を表現すること、それを今作で描ければと思いました。最初は空回りをするけれど、少しずつつたない英語を使いだすという点でも、僕とパク・ジョンボムとの関係に近いですね。今は、コロナ禍によってどの国の人も辛い状況を強いられています。他者の痛みに思いを馳せるのは、どうしたって必要なことだと思います。世界平和なんて言葉を使うのは照れ臭いのですが、国籍も人種も関係なく同じ気持ち、痛みを共有すること。みんなでビールを飲みながらご飯を食べること以上に重要なことなんてないんじゃないか、と思います。この作品は、二つの国を結ぶ小さな架け橋になりそうな気がしています。


(取材・文=田村のりこ)



7/2 FRIDAY〜
[テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、なんばパークスシネマ他、全国ロードショー]
映画「アジアの天使」
■脚本・監督/石井裕也
■エグゼクティブプロデューサー/飯田雅裕
■プロデューサー/永井拓郎、パク・ジョンボム、オ・ジユン
■撮影監督/キム・ジョンソン、 音楽/パク・イニョン
■出演/池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー、キム・ミンジェ、キム・イェウン、 
佐藤凌 他
■製作/『アジアの天使』フィルムパートナーズ
■制作プロダクション/RIKI プロジェクト、 SECONDWIND FILM
■配給・宣伝/クロックワークス


革新的な作品で話題を呼んできたフラメンコ・ダンサー&振付家のイスラエル・ガルバン。このコロナ禍においてスペインから来日し、『春の祭典』を愛知と横浜で上演することになり、その記者会見が行なわれた。



海外からの招聘公演が次々と中止される中、今回の来日公演実施にあたってはバブル方式を採用、ガルバンも隔離期間中は一人でリハーサルに励んだ。迎え入れる側のDance Base Yokohamaも、最寄りのスーパーにある商品すべてを撮影し、その中から必要なものをオーダーできるようにしたり、ホテルの客室にエアロバイクを運び入れたりとさまざまな工夫を。アメリカからピアニスト2名が来日することができなかったため、日本人ピアニストの増田達斗と片山柊が起用され、それぞれから提案のあった曲(増田からは自作曲の「バラード」、片山からは武満徹の「ピアノディスタンス」)のパフォーマンスを「春の祭典」と組み合わせて上演することとなった。


(C)羽鳥直志

「実際に舞台に立って踊るために、14日間の隔離やPCR検査、スペインから日本に来るまでの長い行程等、本当に踊れるのか信じられないような思いをしなくてはいけない」と心境を吐露したガルバン。ヨーロッパの他の国からのオファーもある中、日本を選んだ理由については「想像もしなかったようなパンデミックにおかれ、一足飛びに飛ぶ大きな一歩が必要だと考えた。芸術が生き続けているということを伝えるためにもやって来た」とのこと。子供のころから何度も来日しており、舞踏の文化があり、フラメンコに造詣の深い観客の多い日本人の前で踊ることを「心地いい」と語った。2019年にスイスのローザンヌで初演した「春の祭典」については、若いころ、独自の踊りのスタイルを目指していたとき、たまたまニジンスキーの写真を目にし、それ以来、自身の踊りのスタイルも変わったと感じられるようになったこと、その後この曲を知ってフラメンコとも共通するリズムを感じ、「(ダンサーが)作品を構成する打楽器の一つとなってリズムを刻む」というこれまでの振付と異なる方法で表現できると思い上演を思い立ったとのこと。踊るにつれ、ニジンスキーの自由も発見できるようになったという。「このたびは『春の祭典』を通じて二人の日本人ピアニストと出会い、彼らとも家族となれる」と、今回ならではのコラボレーションについて語った。


(C)羽鳥直志

4月の終わりから急に実現に向けて動き出したコラボレーションについて、増田は、「KAAT神奈川芸術劇場ホールと愛知県芸術劇場コンサートホールという、なかなか立てない舞台に素敵な公演で立てることがうれしい。共演できる幸せをすべてのステージでかみしめつつ全力でお届けしたい」と抱負を。「オファーに驚いた」という片山は、「『春の祭典』はいつか取り組んでみたいと思っていた曲。今回、世界的なダンサーの方々と共演するという奇跡のようなチャンスをいただき、大きなステップとして取り組んでいきたい」と意気込みを語った。「『春の祭典』がもつ野性的、人間の本性がむき出しになったようなエネルギーは、自分が『バラード』を書いたときにもこめたもの」(増田)、「コンサートのプログラムを組む際、音楽史的な文脈を考えることが多いが、『ピアノディスタンス』は若い時代のエネルギーや実験的な要素が『春の祭典』との共通項として見出せる」(片山)とは、それぞれの選曲の理由。リハーサルについては、「ガルバンさんのダンスが打楽器的に床からダンダンと身体に伝わってきた」(増田)、「違う分野のものが高い次元で合わさる感じ」(片山)と感想を述べた。「リズムを通してストラヴィンスキーと対話し、音楽と一体化する。クラシック音楽とフラメンコが出会い、フラメンコと二人のピアニストのもつ日本の文化が出会う」とは、今回のコラボレーションについてのガルバンの解説。「『春の祭典』は儀式的、魔術的な作品であり、演奏され、踊っていく中で、自分自身が変容する。フラメンコも、舞台に上がって踊ることで自分が変容していくという共通点がある」と語るガルバン。「劇場が閉まっている中、開いているバル(飲食店)で踊ったこともあるが、なぜバルが開いていて劇場は閉まっているのか、おかしいと思った」と率直な思いを吐露する場面も。「観客の前で踊るということは一つの儀式であって、観客との一体感を感じることがアーティストにとって必要。踊れないことで家族を失ったかのような喪失感を失った。今回、再び家族に会える思い」と、公演への期待を語っていた。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

6/23WEDNESDAY・24THURSDAY
イスラエル・ガルバン「春の祭典」
■会場/愛知県芸術劇場 コンサートホール
■開演/(23日)18:30 (24日)14:00
■料金(税込)/【一般】S¥7,000 A¥5,000 B¥3,000
【U25】一般の半額(公演日に25歳以下対象 *要証明書)
■お問合せ/愛知県芸術劇場 TEL.052-971-5609


第二回ホラーサスペンス大賞を受賞した五十嵐貴久原作の「リカ」シリーズ。2019年に東海テレビ制作・フジテレビ系全国ネットで放送され好評を博したTVドラマ「リカ」、リカの子供時代を描いた「リカ 〜リバース〜」(2021年O.A)を経て、ついに映画となってスクリーンに登場します。今回は先日名古屋で行われた主演の高岡早紀さんのコメントを交えながらリポートします。


今回のストーリーは2019年のドラマの続編という形で展開します。警察から逃亡し、愛する人の元へ向かうリカのその後の物語。山中でスーツケースに入って発見されたのは、3年前に雨宮リカ(高岡早紀)に拉致された本間隆雄。その遺体は生きているうちに様々な部位が切り刻まれたという猟奇的な手口。警察は再び潜伏中のリカを捜査する。刑事の奥山(市原隼人)はマッチングアプリを利用しリカを誘き出します。「魂の片割れを探している」という奥山の言葉に運命を感じたリカだが、奥山もまた次第にリカにのめり込んでいってしまう。


主人公・雨宮リカを演じるのはドラマと同じく高岡早紀。強烈なセリフ、見るものを震え上がらせるような独特の表情、ドラマではお馴染みの高速で走るシーンももちろん、今回はスパイダーマンのように空を飛び壁を登るなどパワーアップを遂げている。自身も”美しき魔性”と呼ばれながら、初エッセイ集では「魔性ですか?」というタイトル通り、そのイメージを大らかに楽しんでもいるよう。
リカの猟奇的な部分と純愛の2面性について尋ねると、
「一歩踏み入れるか、踏み入れないかというのが大きな違いになります。手前で踏み止まっていればみんな”可愛い”ままでいられる。ほとんどの人が踏み越えることなく普通でいられているんだけれど、リカは踏み越えているというか踏み外してしまってサイコとなってしまった。でも、そうなる手前のリカはピュアで可愛らしい、そこが皆さんの共感を生んでいるような気もします。でも一線踏み越えてしまいそうな瞬間って、誰にでもありますよね?あと1回追いかけたらストーカーになりそう、怖がられる、でもそうしちゃいそうな時って誰にでもあると思うんです。」


共演は、リカにのめり込んでいく刑事・奥山に市原隼人、奥山の同僚で婚約者でもある青木孝子には内田理央、青木の先輩・梅本尚美に佐々木希、そして尾美としのり、マギーと豪華キャストとなっている。映画「リカ ~自称28歳の純愛モンスター~」は6月18日より名古屋・センチュリーシネマほか、全国公開です。

6/18 FRIDAY〜
[名古屋センチュリーシネマ他、全国ロードショー]
映画「リカ 〜自称28歳の純愛モンスター〜」
■監督/松木創
■原作/五十嵐貴久「リカ」「リターン」(幻冬舎文庫)
■出演/高岡早紀 市原隼人 内田理央 尾美としのり マギー 佐々木希 他
■配給/ハピネットファントム・スタジオ


今年2020年で結成38年を迎える日本を代表するパンクバンド<the原爆オナニーズ>。キャリア初となるドキュメンタリー映画を、2017年にアンダーグラウンドレーベルLess Than TVに肉薄したドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』で映画監督デビューを果たした大石規湖(おおいし のりこ)監督がデビュー2作目として完成させた。今回、9月18日(金)に、映画『JUST ANOTHER』の公開を記念して<the原爆オナニーズ>の本拠地でもあり、本作でも大きくフィーチャーされている“今池祭り”の開催地にある名古屋シネマテークで、どこよりも早い先行上映が行われ、上映後に<the原爆オナニーズ>と大石規湖監督が舞台挨拶に登壇した。その舞台挨拶の模様をレポート!



あいにくの曇天模様となった名古屋市千種区今池。日本でも指折りの<the原爆オナニーズ>と同じ38年の歴史を持つミニシアター、名古屋シネマテークには平日にもかかわらず朝から長蛇の列が出来た。並ぶ人々のお目当ては、今夜20時より上映される地元が誇るパンクバンド<the原爆オナニーズ>キャリア初となるドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』の舞台挨拶付き世界最速上映のチケット。ただでさえ小さな映画館なのに、コロナ禍の感染予防対策として減席での販売となるため、さながらプレミアムチケット争奪戦の様相。中には仕事を休んで来た人、他県からGO TOした人もいて、チケットは午前中で完売となった。本来であれば、例年この時期には街を上げての“今池祭り”が開催され、一年の中で一番の盛り上がりとなるはずだったのだが、今年はコロナ禍で中止。ならば“今池祭り”をフィーチャーしたこの映画で盛り上がろうと、商店街のいたるところに映画のポスターに“今池ハードコアは死なず”の言葉を加えたオリジナルポスターが貼り巡らされていた。


舞台挨拶でのthe 原爆オナニーズのメンバーと大石規湖監督

明るくなった劇場に司会者が入り舞台挨拶がスタート!大石規湖監督、<the原爆オナニーズ>のTAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBUの順で呼ばれると再び大きな拍手が沸き上がった。まずはそれぞれのオープニング挨拶の後、大石監督が「今池祭りがあっての映画なのでコロナ禍で今年の祭りが中止になって本当に残念です。本当は今池祭りに参加してからこの映画を観るという流れにして頂きたかったので、来年の祭りが楽しみです」とコメント!TAYLOWが「大石監督から最初に話しをもらった時には、最後までやり遂げられるのかな?と思ったけど、良くぞ完成させてくれた!」と監督をねぎらうと、EDDIEからも「良い感じにまとめてくれてありがとう。」の言葉が、また予告編の中で波乱万丈のないバンドと語っていたJOHNNYからは「監督が良いと思ってくれればなんでもご自由に撮ってくださいと思っていたけど。完成した映画を観て、『こう来たかと!』思いました」と感想をコメントした。またSHINOBUからは「自分自身を観るのが恥ずかしい」と照れくさそうに話し、場内は笑いに包まれた。


大石規湖監督

また大石監督は「最後までメンバーの誰も本当に映画になると信じてくれていなかったことが一番やり辛かった」と、恨み節をここぞとばかりに炸裂し笑いを誘う。映画の中心が次第にSHINOBUにシフトしていくことについては「一番年齢的にも立場的にも自分に近いSHINOBUさんの視点を通すことでバンドを上手く伝えられるのではないかと思いました」と監督が話すと、SHINOBUからは「監督と一番親しいのは僕です!」との宣言が。また今年中止になった今池祭りについてTAYLOWが「唯一の豊田市民である自分はお邪魔している感じですが、子どものダイブを大人が支えたり、誰もが楽しめる他に類をみないイベントだと思います」とコメントすると、大石監督が「海外のヴェニューの雰囲気の様な分け隔てが無い老若男女が楽しめる日本では特異なイベントだけど、今池では音楽が生活にあること感じる輝かしいイベントだと思います」と同調。TAYLOWも「日常の中に音楽があることが感じられるんです」とコメントした。舞台挨拶は暖かい野次も飛ぶ終始和やかな雰囲気で進行した。最後に監督からは「映画をご覧いただいて気に入っても、気に入らなくても、どんな言葉でも良いのでSNS等でリアクションが欲しいです!」とコメッセージが届けられた。TAYLOWからは「1人10回は観て下さい!」と、観客へリクエストが投げかけられ、そしてJOHNNYからは「来年の今池祭りまで上映が続くように何度も劇場に来て下さい」と念押し!舞台挨拶は大きな拍手で終了した。10月24日(土)より新宿K’s cinema、10月31日(土)より名古屋シネマテークでのロードショーに大きな弾みとなる先行上映となった。


これまで語られる事のなかった<the原爆オナニーズ>のバンド内部の真実が、本人たちによって静かに語られていく。なぜ彼らが40年にわたりパンクロックを続けられるのか?その理由が感じ取れるはずだ。このドキュメンタリーは全てのバンドマンに活動し続けるヒントを圧倒的なパワーで届けるだけでなく、未曾有のコロナ禍の中で日常を奪い去られても生きていかなくてはならない我々に、それでもやり続ける力を与えてくれるに違いない。
                      Report&Text/川本朗(CINEMA CONNECTION)


名古屋シネマテーク他、全国で順次公開中
映画『JUST ANOTHER』
■企画・制作・撮影・編集・監督/大石規湖
■出演/the原爆オナニーズ <TAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBU>、
    JOJO広重、DJ ISHIKAWA、森田裕、黒崎栄介、リンコ 他
■ライブ出演/eastern youth、GAUZE、GASOLINE、Killerpass、THE GUAYS、横山健
■配給/SPACE SHOWER FILMS



「百円の恋」で日本アカデミー賞を受賞した名脚本家・足立紳が、自伝的小説を自ら脚色したのが監督第二作目となる「喜劇 愛妻物語」だ。稼ぎがほぼゼロの夫・豪太は、家計や子育てに追われていつも不機嫌な妻・チカと隙あらばセックスに持ち込もうとする。人生の世知辛い部分、明け透けな夫婦関係をユーモラスに赤裸々に描いている。今回はこの夫婦役を演じた濱田岳と水川あさみという、今絶好調の二人の会見レポートをお届けします。


―この夫婦像をどう捉えたか?
濱田 ある夫婦の物語として台本を読んだときには、「かなりパンチのある夫婦だな」って思ったのが最初の印象です。ただ、水川さんと日々この夫婦をやっていく上で変化していったのは、なんか決して不幸な二人ではないというか。これだけ毎日けんかを繰り返していても、もう次の瞬間、離婚届を出しに行くような夫婦には思えない。ともすると、こういう夫婦が不幸だと決めつけるのはちょっと違う価値観だなと思って。この二人は二人にしかわからない夫婦っていうのが成立しているような気がしています。

―足立監督の体験がベースとなった物語を演じる
水川:この作品への出演が決まって監督と最初にお会いしたときに、「僕たち夫婦がモデルになってはいますが、別に僕や奥さんを演じてほしいわけではない」ということは言われました。「脚本の中にある豪太とチカであってほしい」っていうことですね。でも監督と奥様が実際に二人で掛け合いをしながら作っているので、脚本が本当に素晴らしいんです。だからそれを信頼して演じられました。あと家でのシーンを、足立監督のご自宅で撮っているので、ロケのときに奥様にお会いしたんです。豪太とチカの片鱗を垣間見るっていう面白さを味わいました。

―仕事がうまくいかずもがいている一方、隙あらば妻とセックスに持ち込もうとする豪太
濱田 妻とイチャイチャしたいっていうのを、冒頭のナレーションからもうすべてあけすけに説明している男なんですよ。だから仕事よりそっちが一歩抜きん出ている感じですかね。(笑)。もうチカちゃんに朝から晩まで叱られてるから、仕事をどうにかしよう。チカちゃんにモテたいから働くというか。なんかそっちな気がしますね、残念ながら(笑)。


―印象に残った演出、シーン。
濱田 僕の中で一番衝撃的なディレクションだったのは最後の、もう家族がバラバラになるかもしれないという長回しのシーンで、「と、泣く豪太」みたいなト書きが書いてあって。「ここで泣くんですか?なぜ泣いているんですか?」と、監督に涙の意味を聞きに行ったんです。そしたら「この危機的状況をうやむやにしようとしています」って言われて。こんな衝撃的なディレクションはなかったですね。もう言葉を失いました(笑)。でも、そのうやむやにしようとしているっていうのがまさに豪太らしくて、何より分かりやすい。やっぱり自分で書いた人でしか説明できない、強力なワードだなと思いましたね。

―ダメな夫に対するチカの気持ち
水川:チカの豪太に対する根本的な気持ちは、きっと若い時に出会ってから変わってないんですよね。彼の脚本を書く才能や、自分の持っていないものをもっているっていうところをすごく尊敬しているし。昔の回想シーンでは、むしろチカが豪太のことをすごく好きっていうような感じで描いているんですが、夫婦になってからも根本的には心にそれがずっとあったと思うんです。だけど、ここだけは頑張ってくれれば別に他のことはどうでもいいのに、そこすら頑張らない。だから腹が立つわけですよね。最後に起こる危機的状況でさえ豪太に丸め込まれて。その豪太の生き抜く図太さ自体に、もう丸め込まれているんだと思います。見えない様な細かい信頼関係がいっぱい二人に張り巡らされているんだろうなと。だから離婚することは絶対にないなと思う、この二人は。


9/11FRI〜
[ミッドランドスクエア シネマ他、全国ロードショー]
映画「喜劇 愛妻物語」
■脚本・監督/足立紳
■原作/足立紳「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎文庫)
■出演/濱田岳 水川あさみ 新津ちせ 他
■製作/「喜劇 愛妻物語」製作委員会
■制作プロダクション/AOI Pro
■配給/キュー・テック バンダイナムコアーツ