HOME > MEGLOG【編集日記】 > <レポート>「関西えんげき大賞」が始動! 制作発表会見をレポート

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関西演劇界の活性化を図るため、2022年より関西えんげき大賞が設けられることが発表され、発案者及び呼びかけ人代表である大阪芸術大学短期大学部メディア・芸術学科教授で演劇評論家の九鬼葉子氏をはじめ10名の呼びかけ人が発表会見を開いた(2名はZoom参加)。

関西えんげき大賞とは、関西演劇の年間ベストステージを決める大賞で、第1回開催は2022年1月から12月の舞台が対象、2023年2月に授賞式を開催する。受賞対象作品は関西の劇団及び関西発のプロデュース公演となっている。

選考方法は、評論家、研究者、DJ など関西の演劇をよく観ている8名の選考委員が年間ベスト10作の優秀賞を発表。そして、さきの選考委員を含む約30~40名の投票委員と観客投票の総合点で10作品の中で最も高い作品を最優秀賞とする。また、観客投票の中から「観客投票ベストワン賞」も設ける。

優秀賞には賞状のほか、該当作品の再演支援として協力劇場の使用料減免が副賞として贈られる。なお、観客投票は事前登録で参加可能。登録先は「関西えんげきサイト」となっている。

発表会見では、九鬼氏をはじめ10人の呼びかけ人がそれぞれ関西演劇への思いなどを語った。

企画の趣旨説明をした九鬼氏は、赤裸々な表現を交えながら次のように話した。「なぜ何年もかけて大切に準備されてきた演劇祭が中止に追い込まれないといけないのか、なぜせっかく稽古してきたのに本番も稽古も中止なのか、それも直前に。アーティストやスタッフの方々は、何か悪いことしたか、何もしていないじゃないか。今の地球は理不尽がすぎる。こんちきしょうと思っていました。その怒りが妙なエネルギーに変換されました」と動機を明かし、「関西演劇界を更に活性化させる方法を思い、ふと「関西には『読売演劇大賞』がないと思った瞬間に考えていたことが一瞬で一つの絵になりました」。そして、演劇関係者に広く呼びかけ、多くの賛同者が集った。

2019年より兵庫県に移住し、2020年に豊岡に開場した江原河畔劇場の芸術監督を務める平田オリザ氏は、毎晩のように演劇関係者と集っていた90年代を振り返り、「これからは関西の時代だと言っていたわけですが、大阪は特に市内に公のホールがなくなっていきました。一方、東京では高円寺や三鷹に公的劇場が整備され、プロデュース公演を行うようになり、この20年間で芸術面では大きな差がついてしまったように感じています。2年前に兵庫県に移住し、江原河畔劇場の芸術監督をさせていただき、名実ともに関西の演劇人に加えていただいたと思っておりますので、今回の企画に参加させていただきました。(学長を務める)芸術文化観光専門職大学の授業でも批評論を扱っていますので、演劇批評を担えるような学生が育ってくれたらと思っております」と話した。

関西えんげきサイト」の編集長・石原卓氏は「80年代にぴあ編集部におりまして、九鬼さんは大先輩になります。私は編集プロダクションや Web プロデュースをやっておりますので、できることはどんどん力になろうと、今回、呼びかけ人と「関西えんげきサイト」の責任者を務めさせていただくことになりました」とあいさつした。

関西えんげきサイト」は関西の演劇情報を網羅的に発信するほか、編集部独自でアーティストやクリエイターなどにインタビューし、企画や読み物の充実も図る。劇評も掲載し、アーカイブすることで、観客が過去に見た作品について検証や考察ができるようにするという。

続いてTHEATRE E9 KYOTO芸術監督のあごうさとし氏は「常々、演劇作品の再演機会の環境整備に悩んでおりました。私たちは小さな劇場ではありますが、演劇作品をなるべく多くの人に、複数回にわたって伝えられる環境づくりに協力できたらと思い、参加させていただいております。いろんな言論、劇評の世界についても、一歩ずつ育まれるように何かできることがあればご協力していきたいと思っております」とコメントした。

近畿大学の舞台芸術専攻准教授で演劇研究者の梅山いつき氏は、1960年代の小劇場演劇第1世代、アングラ演劇と総称される演劇が専門だ。「6年前に近畿大学に赴任し、それを機に特に大阪を中心にした小劇場演劇をよく観るようになりました。そこで東京と比較すると数としては少ないけれども、密度の濃い作品が多いという印象を抱きました。一方で、関西での小劇場演劇が全体としてどういう動きがあるのか、その全体像がなかなか見えてこないと。「関西えんげき大賞」の話を聞き、関西を中心とする劇場演劇、そして演劇界全体を盛り上げる大きな仕掛けになるのではないか感じました」と期待を寄せた。

また、劇評を発表している「関西えんげきサイト」についても、「批評を伴う企画も重要なポイントだと感じています。歴史を振り返ると、何か新しい表現活動が生まれたり、新しい動きがあるときは、必ず活字が寄り添います。表現活動のそばには活発に論じる批評家がいて、言葉が伴い、それが一種の美術運動やムーブメントに発展していくということがあります。そういった意味でも、「関西えんげき大賞」と「関西えんげきサイト」の開設は関西の演劇界に大きなムーブメントを生み出す起爆剤になるのではないかと感じています」と劇評の重要性も語った。

大阪大学招へい研究員で演劇研究者の岡田蕗子氏は「私は研究者の側面もありますが、エイチエムピー・シアターカンパニーという劇場に19歳の時から所属し、劇場の裏方を担当してきました。今回、「関西えんげき大賞」でお声がけをいただいた時に思ったことは、今まで十数年間、 関西の演劇界で育てていただき、劇場からいろんなことを考えるチャンスを与えてもらっていたことでした。劇場を通じてジェンダーや移民、様々な事を学んできました。そもそもインド哲学という全く違う分野を研究していた学生の私が、演劇学を専門にしようと思ったきっかけは「劇場通して視点が変わる」という非常に個人的な感動があったからでした」と劇場が果たす機能についても言及した。

岡田氏も「関西えんげきサイト」に劇評を発表している。劇評についても「一つの観劇体験を誰かと共有することで、いろいろなことを考えることがなによりも大事だろうと。そのことで自分の世界が少し変わるのではないかとややロマンチックなことを考えますが、そういったこともコロナ禍が広がり、やや停滞した心を少し明るくするために大事なことだと思っております」と続けた。

俳優で「大阪女優の会」副代表の金子順子氏は「演劇ほど自由で闊達な文化はありません。とにかく演劇を元気にして、たくさんの人に演劇を知ってほしい。劇場体験を知ってほしいと思っています。ぜひ皆さん、劇場にお越しください」といざなった。

FM COCOLOのDJ、加美幸伸氏は「演劇と絶妙な関係性を作るため、年間100本以上の演劇に触れるようにしています。そんななか、メディアが演劇と出会う機会や導きを準備すると、好奇心旺盛なリスナーはちゃんと意見をくれるということが分かりました。メディアと観客とが手を取り合ってつながりあうこと。こういった賞やサイトが生まれることで、豊かな演劇シーンにつながっていくのではないかと常日頃から思っております。大変期待しています」と声に力を込めた。

一心寺シアター倶楽館長の髙口真吾氏は「今回、九鬼さんからお話をいただいて私も発起人の一人として参加させていただきました。今日の発表に至るまでの経緯を1年前から目撃しておりますが、その中でも思うのは、九鬼さんは本当に演劇に愛のある人だということです。お客様には演劇で盛り上がっていきたいという素直な気持ちをお伝えして、その一連の中に「関西えんげき大賞」や」「関西えんげきサイト」があるのだと示して、微力ながら協力できればいいなと思っています」と思いを語った。

大阪大学の演劇学研究室教授で演劇学者の永田靖氏は「私は演劇の教育と研究に携わっているのですが、演劇作品の上演があってこそできることです。関西演劇の一層の活性化を期待しています。演劇を観ることに加え、大事なのは上演後にそれを継続的に議論するということです。日本の演劇全般に決定的にないのは、上演後の議論です。「関西えんげきサイト」でもいろんな試みをされています。微力ながらご協力させていただければ幸せです」と語った。

関西演劇の魅力を尋ねられた九鬼氏はこう答えた。「不屈の精神です。関西演劇と40年、付き合っていますが、くじけずに立ち上がってきた歴史です。東京では区立の劇場が立派で、国立の劇場とそん色ありません。一方、大阪は市立の劇場がなくなり、稽古場もなくなっている。そんな環境下でも次々と新しい劇団が生まれ、ベテランの劇団も活動を続けています。関西には社会に対して真面目に、照れずに、ストレートな批評性があります。それは中央の視点ではなく、関西の生活言語で、生活者の視点で普通の人々が主人公になっている。そして、創意工夫。お金をふんだんに使った舞台は豪華だなとワクワクしますが、お金がないと知恵で勝負します。私たちの生活と一緒ですね。低予算でよくこれだけ観客の想像力を喚起する工夫をしたなと、その知恵にも感動しています」。

関西演劇界の活性化をはかるためスタートした「関西えんげき大賞」。「関西えんげきサイト」では随時、情報や劇評、企画を更新する。

関西えんげきサイト
https://k-engeki.net/