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2021年10月11日 <会見レポート!>デヴィッド・ボウイの若き日を描いた映画「スターダスト」
ガブリエル・レンジ監督による若き日のデヴィッド・ボウイを描いた映画「スターダスト」が公開中である。今作品はボウイがジギー・スターダストとしてカリスマ的存在となる直前を描いた物語。アーティストとしてのアイデンティティを確立する過程、兄・テリーとの関わりなど今まであまり注目されなかった内容にスポットを当てている。今回はライターで翻訳家でもある野中モモさんにこの映画の見どころを話して頂いた。野中さんはデヴィッド・ボウイに関する著作もある他、2017年に日本でも開催された大回顧展「DAVID BOWIE IS」の公式図録の翻訳も手掛けている。
1969年に「スペース・オディティ」がヒットしたデヴィッド・ボウイは、この頃程なく入籍するアンジェラ・バーネット(ジェナ・マローン)と出会い、ロンドン大邸宅を集合住宅に改装した「ハドンホール」にバンドメンバーと共に移り住んでいた。そんな中制作されたアルバム「世界を売った男」(1970)を、なんとか売り込もうとアメリカへプロモーション・ツアーに出かける。1971年、このアメリカでの出来事が物語の軸となっている。「世界を売った男」は90年台以降に再評価されたものの、当時は決してヒットしたとは言えない作品。ボウイは「スペース・オディティ」が少し売れただけの「一発屋」として見られていた。
野中:私は「ジギー・スターダスト」以前、初期のデヴィッド・ボウイがすごく面白いと思っているんです。ファーストアルバム「デヴィッド・ボウイ」(1967)なども演劇的な要素が盛り込まれていて、後世に影響を与えている重要な作品なんです。ただこのアルバムも、泣かず飛ばずだったという見方をされることがほとんどなので、今回の映画をきっかけに再評価されるといいなと思っています。
物語はサクセスストーリーとは程遠い「トホホなロードームービー」と言っていい内容。だからこそ、ロック・スターであるデヴィッド・ボウイの人間臭い面が垣間見られる作品となっている。プロモーション・ツアーでボウイ(ジョニー・フリン)はひとりでアメリカの空港に辿り着く。入管では、観光ビザのためにライブ演奏はできないと言われてしまい、いきなり出鼻をくじかれる。迎えにきたのは、当時所属していたマーキュリー・レコードのパブリシストであるロン・オバーマン(マーク・マロン)。その日はホテルが用意されておらず、ロンの実家に泊まり食事も家族と共にする。この辺りのボウイが感じたであろう息苦しさもスクリーンから顕著に伝わってくる。
野中:まだ駆け出しのアーティストが、成功を目指してもがいている青春映画。そして1970年台という時代の空気、半世紀前のエンターテイメントの世界。まだいかがわしいというか、きちんと管理されて情報がすぐ行き渡る現在とは、全く違った時代の空気を感じることができるのも魅力ではないかなと思います。
ボウイはロンと二人で、ギターを手に車でプロモーションにあちこち出かける。インタビューでは上手く自分を表現できず、バーや身内のパーティーで歌っても誰も耳を貸さない。しかしこのいくつかの出来事は、まだ世間がボウイの魅力に気付いていないのと同時に、ボウイ自身もアーティストとしての方向性を確立していないことを思い知る機会にもなった。ロンはその足掛かりを2つボウイに渡す。ひとつはレジェンダリー・スターダスト・カウボーイというミュージシャのシングル・レコードを薦めたこと。もうひとつは、当時ザ・ストゥージズとして人気を誇ったイギー・ポップの存在を語ったことだ。映画ではイギー・ポップの他、ルー・リードやアンディ・ウォーホルとの関わりも盛り込まれている。
野中:私はイギー・ポップの話をするシーンが好きです。車に乗って、アメリカの田舎を車で旅をしながら「なんかすげえやつがいるんだ」と。そういう何か人のやることが他の人に影響を与えたり、ちっちゃな善意に救われたり、通じ合うことで手応えを感じて次に進んでいくという、こういう姿は自分に照らし合わせて考えられる方もいるのではないかと思いました。
「ジギー・スターダスト」の名前は、このイギー・ポップの名前(IGGY)とレジェンダリー・スターダスト・カウボーイが由来であると言われている。
またこの作品では、兄・テリーとの関わりが丁寧に描かれている。音楽を教えてくれた大好きな兄は、統合失調症を煩い病院に入院することとなる。兄を心配すると同時に、自分もいつか発症するのではないかという恐れを抱く。
監督・脚本のガブリエル・レンジは「彼の初めての渡米に関してはあまり記録が残っていない。ある意味、最悪の旅だった。自分の曲を宣伝しにきたにも関わらず、ビザも、音楽家ユニオンの書類もなかったため、彼は目的の曲の演奏が許されなかった。代わりに彼は、別人格であるジギー・スターダストを創り上げるための幾つかのアイデアを発見した。デヴィッドが悩んだ末にたどり着いた、狂気を安全に経験する方法がジギーなのかもしれない。多重人格障害が発症する前に、多重人格を作り上げてしまう手法なのかもしれない。それは、世界的な有名ロックスターになるという妄想を現実へと変えてしまった。」と述べている。
物語はボウイが開眼し、バンドメンバーを説得して「ジギー・スターダスト」を作り上げようとするところで幕を下ろす。それ以降は世界が知るデヴィッド・ボウイとなるから描く必要はないと、そう言わんばかりの映画である。
◎Interview&Text/福村明弘
10/8 FRIDAY〜【名古屋・伏見ミリオン座 他、全国ロードショー】
映画「スターダスト」
■監督/ガブリエル・レンジ
■脚本/クリストファー・ベル
■出演/ジョニー・フリン、ジェナ・マローン、マーク・マロン
■配給/リージェンツ