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2019年10月04日 <会見レポート!>グランドオペラ共同制作 オペラ「カルメン」
神奈川県民ホール大ホール、愛知県芸術劇場大ホール、札幌文化劇場 hitaruの三つの劇場で上演される、神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2019『カルメン』の記者懇談会が、9月末、東京都内で開催された。
今回演出を担当するのは、オペラのみならずミュージカル作品なども手がける田尾下哲。『カルメン』は、演出アシスタントやホール・オペラ、ハイライトなどを上演してきたが、本格的に作品を演出するのはこれが初めてだとのこと。その彼は、21世紀の今日、この名作オペラを上演するにあたっての二つの問題点を指摘した。まず一点は、この作品における「ロマ」の人々の描き方。ヒロインのカルメンは性的に奔放なジプシーの女性として描かれているが、「ロマの人々は自らをジプシーとは呼んでおらず、他の人々による呼称に過ぎない。また、実際には、(カップルは)一生涯添い遂げると聞いた」とのこと。二点目は、エスカミーリョの闘牛士という職業について。「今日においても闘牛士が存在することは事実だが、動物をいじめ、殺す、野蛮なショーを楽しむということは、21世紀においては看過できない」。この二点を解消すべく、「私の師匠である演出家ミヒャエル・ハンペとも相談した上で、21世紀のアメリカのショービジネスの世界に置き換えて上演することにしました」。すなわち、バーレスクのクラブに出演していた無名のカルメンが、オーディションを受けてブロードウェイの舞台に進出するも、業界の大物に干されてサーカスでドサ回り、しかしながらハリウッドの大スター、エスカミーリョに見出されて銀幕のスターになるというのが今回の演出コンセプト。終幕はアカデミー賞のレッド・カーペットのイメージになるというから興味津々だ。
もう一点、田尾下が指摘したのは、作品における指輪の扱いについて。終幕、エスカミーリョと共にやって来たカルメンは、もらった指輪をホセに投げ返すが、「元カレの指輪を持っていたりするのかどうか。今回、指輪の行方もていねいに描いているので、注目してほしい」そうだ。
続いて挨拶したカルメン役の加藤のぞみ(アグンダ・クラエワとダブルキャスト)は、今回がロール・デビュー。「夢の夢のまた夢だった役で、藝大生だったときからいつか歌いたいと思っていました。イタリアで勉強した後、移り住んだスペインでは、ロマが海辺で歌い踊る姿に遭遇することも多い。今回やっとカルメンができる! と思ったのですが、ショービズで行きますと言われ、あれ? と。稽古初日はまずダンスから始まり、正直とまどいがあったのですが、『カルメンは絶対あきらめない』との田尾下さんの言葉を聞いたとき、腑に落ちるものがあった。イタリア、スペインで悔しい思いをしてきた、その闘争心は役柄に活かせると思うので、新しいカルメンを作っていけたら」と抱負を述べた。
ドン・ホセ役を務める城宏憲(福井敬とダブルキャスト)は、「一幕から四幕まで詳しく稽古がつき、全貌が見えてきた。(田尾下)哲さんとの仕事は二、三回目になるが、僕が新国立劇場でイギリス人の講師に教わったこと、すなわち、歌を感情から、動きからと多角的に解釈するということをまさに求める演出家だと思う。今回も、ダンスをはじめ、のけぞる、這いつくばるといった動きも入っていて、身体表現としてもとても魅力にあふれている。ドン・ホセは、話の渦の中心にはいないが、カルメンの生き様を見せる影。話的にはカルメンの足を引っ張るけれども、どこまでもカルメンを支えたいと思っている。ダンスのシーンはないが、ピエロの姿になったりする場面があるので、新しい要素を加えて作っていきたい」と、新演出への意気込みも高い。
“ショービズ”『カルメン』のアイディアはどこから? との問いに、田尾下は、作中の歌についての分析を披露。ドン・ホセの「花の歌」、ミカエラのアリアなどは登場人物が心情を吐露する曲として歌われるものだが、カルメンが酒場で披露する「ハバネラ」はあくまで歌手として歌っているものであり、最終的には皆と大合唱になるエスカミーリョの「闘牛士の歌」も、「初めてこの作品を観た人にとっては歌手が歌っているように見えると思う。そこで、エスカミーリョが大スターとして歌を歌っているということがおかしくない設定を考えた。映像、舞台、ミュージカルに出演し、プロデュースも行なう、ヒュー・ジャックマン的なイメージ」と、斬新なコンセプトの源を明かす。作中登場する「闘牛士」や「兵士」といった言葉については、あだ名として扱うとのこと。
各場面のヴィジュアル・イメージ、イメージ・ソースについてだが、バーレスクの場面については『NINE』や『シカゴ』の雰囲気で、黒の下着のコスチュームも登場するとか。ブロードウェイの場面は『ムーラン・ルージュ』の雰囲気で、チャールストン・スタイルも登場。サーカスの場面は、「世界ツアーに出始める前のシルク・ドゥ・ソレイユ」というから設定が細かい。終幕のレッド・カーペットの場面には、メット・ガラのイメージも重ね、レディー・ガガの衣装も参考にしているという。
カルメンは21世紀の女性にとって感情移入しやすいキャラクターと思われるが、ドン・ホセについてはどう考えるか? との質問に対しては、田尾下は「一途でプライドの高い男だけれども、カルメンにとっては何者でもない。カルメンはビッグ・スターと結婚すべき。ドン・ホセは足を引っ張るタイプの男で、カルメンにとってはよくないタイプ」とバッサリ。「さきほど、カルメンを支えたいと言ったけれども」と城が反応すると、「迷惑」とまたまたバッサリの田尾下、そんな二人のやりとりに笑いが起きる。
カルメンが発する「自由!」の一言について尋ねられた加藤は、「カルメンは高みに行きたい人。ドン・ホセが自分を愛する姿がすごく邪魔になる。その彼の『花の歌』を聞いていてふっと女性に戻る弱さ、ある種の決意をする様を見せたい」と語る。田尾下によれば、この場面は、スターダムにのし上がった自分の姿をカルメンが夢想するが、ドン・ホセには見えないという演出になるとのことで、『シカゴ』の「ロキシー」のナンバーをも思わせるシーンとなりそう。オペラ・ファンのみならず、ミュージカル・ファン、映画ファンにも大いにアピールしそうなこのプロダクション。初日の幕が上がるのを心待ちにしたい。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
◎指揮/ジャン・レイサム=ケーニック◎演出/田尾下哲
◎出演/
カルメン:加藤のぞみ(11/2)/アグンダ・クラエワ(11/3)
ドン・ホセ:福井敬(11/2)/城宏憲(11/3)
エスカミーリョ:今井俊輔(11/2)/与那城敬(11/3)
ミカエラ:髙橋絵理(11/2)/嘉目真木子(11/3)ほか
合唱:二期会合唱団、愛知県芸術劇場合唱団
児童合唱:名古屋少年少女合唱団
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団
<公演情報>
11/2 SATURDAY・3 SUNDAY 【チケット発売中】
グランドオペラ共同制作
ビゼー作曲『カルメン』
(全4幕/フランス語上演・日本語及び英語字幕付き/新制作)
◼️会場/愛知県芸術劇場大ホール
◼️開演/各日 14:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥15,000 A¥12,000 B¥9,000 C¥6,000円(U25 ¥3,000) D¥4,000円(U25 ¥2,000)プレミアムシート¥20,000
※未就学児入場不可。託児有(有料・要予約)
※U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)