HOME > MEGLOG【編集日記】 > <観劇レポート!>ケラ演出・妻夫木聡主演の傑作舞台「キネマと恋人」が待望の再演!!

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撮影:御堂義乗


ウディ・アレンの傑作映画『カイロと紫のバラ』の物語をベースに、舞台を昭和36年の日本の架空の離れ小島に置き換えて描くケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の『キネマと恋人』。好評を博した初演から3年、待望の再演が実現した。初演の際は東京・三軒茶屋のシアタートラムでの公演だったが、再演はより客席数の多い世田谷パブリックシアターへとトランスファー、スタッフ・キャストがほぼ再結集しての上演となった。作品は現在全国公演中だが、その東京公演の模様をレポートしよう。

東京から遠く離れた小さな島にある映画館「梟島キネマ」に、毎日のように同じ映画を観に通うハルコ(緒川たまき)。不況の中、失業している夫は横暴だが、映画を観ているときだけ彼女は現実を忘れられるのだった。そんなある日、彼女が見つめる『月之輪半次郎捕物帖』のスクリーンから、彼女が大好きな俳優高木高助(妻夫木聡)が扮しているキャラクター「間坂寅蔵」(妻夫木聡の二役)が飛び出してくる。共に過ごす時間を楽しむうち、恋に落ちるハルコと「寅蔵」。一方、キャラクターを一人欠いた映画は大混乱、梟島にロケで滞在中だった高助も迷惑を被る。そして、「寅蔵」を探し始めた高助も、ハルコと出会い、恋に落ちる。役者と、彼が演じる架空のキャラクター、“二人”の間で揺れ動くハルコの選ぶ道とは――。
 「チーク・トゥ・チーク」や「私の青空」といった戦前の人気メロディがレトロなムードを盛り上げる中、繰り広げられるこの舞台。緒川たまきは、そのたおやかで古風なたたずまいが、夢見る少女の風情を残したヒロインにぴったり。どこか浮世離れした個性をたたえた彼女の好演が、この奇想天外なおとぎ話の成立を支えている。架空の方言を繰り出す様も実にチャーミング。うっとりとした表情、せつない表情、緒川の生き生きとしたさまざまな表情が強い印象を残す。妻夫木聡も、役者と、その役者が演じた架空のキャラクターという二役に扮して魅力を発揮する。とりわけ、スクリーンの時代劇からハルコに惚れて飛び出し、現実感をまったく持たない素直で素朴な言動で周囲を和ませる「寅蔵」役を演じて実に愛らしい。


撮影:御堂義乗

スクリーンから、キャラクターが飛び出す。舞台上の生身の役者の演技と、映像の中のキャラクターの演技とが絡み合って織り成す大混乱は抱腹絶倒もの。映像の中、ストーリーを進めずサボタージュするキャラクター達の姿に熱心に見入り、これを「傑作」と評する人物も現れるあたり、皮肉が利いている。
 ハルコが選ぶのは、「寅蔵」か、高助か――。主演俳優と実際に男女の関係をもってしまい、その男にあっけなく捨てられるハルコの妹ミチル(ともさかりえ)を登場させたことで、元となった映画『カイロの紫のバラ』より一層辛口な味わいとなったこの物語。人は、映画や舞台、ドラマといった虚構にいったい何を求め、これを観るのか。役者の演技を愛することは、いったいどのような階層において成立するものなのか――例えば、さきほど、この作品における妻夫木聡の演技について、「寅蔵」役の方により好ましさを表明したけれども、ある役者が演じる複数の役を比較してその役者の魅力を探るという行為自体に、この舞台において劇作家が客席に投げかける“罠”のような問いに引っかかっているのではないかと自問自答させられる。虚構なるものが現実にもたらす救いの陥穽を描いて、ビターな波紋を心に残す作品である。

文=藤本真由(舞台評論家)


撮影:御堂義乗

<公演概要>
7/12FRIDAY〜15MONDAY・HOLIDAY
世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009
舞台『キネマと恋人』
◎台本・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
◎出演/妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえ、他
◼️会場/名古屋市芸術創造センター
◼️開演/
7月12日(金)18:30、7月13日(土)・14日(日)13:00、18:00、7月15日(月・祝)13:00
◼️料金(税込)/全席指定¥8,500
◼️お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-588-4477(平日10:00〜17:00)
※未就学児入場不可
◎共催/名古屋市文化振興事業団(名古屋市芸術創造センター)