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2019年06月18日 <会見レポート>ネザーランド・ダンス・カンパニーが13年振りとなる待望の来日公演!
世界有数のコンテンポラリー・ダンス・カンパニーであるオランダのネザーランド・ダンス・シアターが、13年ぶりに待望の来日公演を行なう。今年創立60周年を迎える同カンパニーは、1970年代後半に世界的な振付家イリ・キリアンを芸術監督に迎え、キリアンをはじめ優れた振付家たちの作品を次々と踊って躍進を遂げた。メイン・カンパニーのNDTⅠ、若手が所属するNDTⅡの二つのカンパニーから成り、かつては40歳以上のダンサーで構成されるNDTⅢも存在。1990年の初来日以来、キリアン体制のもとで何度も来日を果たしており、現在芸術監督を務めるポール・ライトフットも、かつての来日公演にダンサーとして何度も参加してきた人物だ。日本人振付家・ダンサーを輩出してきたことでも知られ、首藤康之とのコラボレーション等で知られる中村恩恵、Kバレエカンパニーとコラボレーションも行なっている渡辺レイはNDTⅠの出身。日本で初めての劇場専属プロフェッショナル・ダンス・カンパニーであるNoism芸術監督の金森穣、森山未來とのコラボレーション等で知られる大植真太郎はNDTⅡの出身であり、現在は総勢44名中4名の日本人ダンサーが在籍している。
会見が行なわれたのは東京港区のオランダ王国大使公邸。冒頭あいさつに立ったアルト・ヤコビ駐日オランダ王国大使は、かつて中国の北京で大使を務めていた際にNDTの舞台を観劇した経験にふれ、「自分はセンチメンタルな人間ではないけれども、舞台の美しさに涙した。そのNDTの13年ぶりの来日公演が実現したことがうれしい」と思いを語った。
会見には、芸術監督で専任振付家のポール・ライトフット、NDTⅠのダンサーで今回の来日公演で上演される『Shoot the Moon』でメイン・キャストを務める刈谷円香、愛知県芸術劇場シニア・プロデューサーの唐津絵理、そしてゲストとして、NDTⅠ出身の振付家・ダンサーである中村恩恵と小㞍健太が出席した。
今回の来日公演のプロデューサーを務める唐津からは、今回は総勢50名の引越公演となり、装置も大がかりなプロダクションで、選び抜かれた4作品を上演することが発表された。そして映像によってその4作品が紹介された。『Shoot the Moon』は、ポール・ライトフットとアソシエイト・コリオグラファーであるソル・レオンの共同振付で、フィリップ・グラスによるきりきりと心を締め付けるような音楽が印象的な作品だ。『Woke up Blind』はアソシエイト・コリオグラファーであるマルコ・ゲッケの振付。アメリカのシンガーソングライター、ジェフ・バックリィの楽曲を使用しており、腕のムーヴメントに独特なものがある。『The Statement』も同じくアソシエイト・コリオグラファーのクリスタル・パイト振付作。テキストを読み上げる声が流れる中、シャツにパンツという姿の4名のダンサーたちが踊る。そして『Singulière Odyssée』もレオン&ライトフット作品。ダンス作品のためにオリジナルで作曲されたマックス・リヒターの美しい音楽が流れ、衣裳も魅力に富んでいる。
この後、ポール・ライトフット芸術監督が挨拶。13年前の来日公演には振付家として、その前の来日公演にはダンサーとして参加していた彼は、2011年にNDTの芸術監督に就任しており、今回が芸術監督として最初にして最後の来日公演となる(今シーズンで退任予定)。来日公演について「夢がかないました」と笑顔を浮かべる彼は、「かつて三年に一度くらい、ダンサーとして来日していて、そのとき、日本の観客がNDTを受け入れてくれていること、日本との芸術上の強い結びつきを感じていた」とのこと。「NDTは“進化”“変化”のダンス・カンパニーです。クラシックの伝統とモダンの伝統とを用い、過去に生きるのではなく今を生きる作品を上演してきました。創立60年で約800もの作品を初演してきていて、来日していなかった13年の間でも、さまざまな変化が生じている。その変化をぜひ観ていただきたい」と抱負を語った。
自作『Shoot the Moon』は、「ダンス・シアターというカンパニー名にふさわしい、バレエというより演劇的な作品を創りたい」との意図のもと振り付けた作品であるとか。三つの部屋が常に回転している舞台装置の中で、5人のダンサーが踊る。そして、観客からは見えない場所にカメラがあり、カメラが映している映像も観客に見えるようになっているという趣向が凝らされていて、「25分の上演時間の中で濃密な人間関係を知ることができる」作品とのこと。
アソシエイト・コリオグラファーのゲッケとパイトについては、「世界的にも有名な、重要な存在で、NDTではシーズン一作品ずつ新作を提供してもらっている。『Woke up Blind』と『The Statement』は同じ晩に共に初演されたという経緯があり、二つの完璧に異なる世界が続けて上演されることになる」とのこと。ゲッケについては、「非常にエキセントリックでセンシティブであるけれども、ユーモアと魅力をもった人物で、作品に温かみがある。スピード感と超絶技巧とを両立させ、ダンサーから感情を引き出す手腕がすごい」とその魅力を語った。ゲッケ作品が抽象的なら、続くパイト作品は「メッセージ性の強い作風」。パイトがカナダ人劇作家ジョナサン・ヤングと共に書き上げた短編戯曲が朗読され、4名のダンサーによる会議の場が描かれる作品について、「ダンサー自身は語らないけれども、“身体的叙述”が見られる、もっともユニークなダンス作品の一つ」と分析。パイトはカナダ・バンクーバー在住のため、送られた映像をもとにダンサーが踊り、その映像を再びパイトのもとに送るというプロセスを踏んでの振付となったとか。
締めくくりに上演される『Singulière Odyssée』もレオン&ライトフット作品だが、ライトフットがヨーロッパを旅していたとき、フランス、スイス、ドイツの電車が発着するスイスのバーゼルの駅に降り立ってインスピレーションを得たとのこと。「政治的な提起としてではないけれども、世界における“ムーヴメント”、すなわち、人の行き交い、難民や移動や移住を描きたかった」そう。ちなみにタイトルは“特別な旅”を表すフランス語だが、フランス語で名づけられたのは、NDTの重要メンバーであったフランス人ダンサー、ジェラール・ルメートルの死に捧げるものとして創作されたためとか(1990年代後半にNDTⅢが来日公演を行なった際、筆者は、重ねてきた人生の年輪が自然とにじみ出るようなパフォーマンスに心打たれたことが今でも非常に思い出深いのだが、そのダンサーこそジェラール・ルメートルであった)。
ここで、『Shoot the Moon』でメイン・キャストを務める刈谷円香が挨拶。NDTⅡで3年過ごした後、NDTⅠに昇格して2年目となる。「来日公演に参加するのが夢でした。作品には、黒のドレスの女性とピンクのドレスの女性、二人の女性が登場し、私は黒のドレスの女性を踊るのですが、私自身は、二人の女性の間には何かしら関係性があるようにとらえて表現しています。5名のダンサーの感情、男女の関係性が強く出ていて、ご覧になった方がそれぞれの思いで理解できる作品だと思います」とその魅力を語った。なお、今回の来日公演には刈谷のほか、高浦幸乃、飯田利奈子と3名の日本人ダンサーが出演予定である。
最後に、かつてNDTに所属し、卒業後も幅広く活躍する中村恩恵と小㞍健太が来日公演に向けてエールを送った。中村は最近NDTの公演を改めて観る機会があった際、「若い人たちがたくさん観に行っていて、帰りのバスで舞台について活発な議論が起きていた。すごく知的好奇心をかきたてるダンス・カンパニーであり続けているのだと思った」とその印象を。「自分の国で踊るのは特別なことですから、踊りたかったですね」と率直な思いを語った小㞍は、「NDTは男性の方が多くキャスティングされる作品が多いけれども、そんな中で、Ⅱで生き抜いて見事Ⅰへと入るのは非常にタフなこと」と後輩ダンサーたちを称賛し、「どの時代も、NDTのダンサーたちは輝いていて、全力で踊ることを全うしている」と、来日公演にますます期待を抱かせる温かな言葉を送っていた。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
<公演情報>
6/28FRIDAY・29SATURDAY【チケット発売中】
ネザーランド・ダンス・シアター
◼️会場/愛知県芸術劇場大ホール
◼️開演/各日14:00
◼️料金(税込)/
S¥12,000 A¥9,000(U25¥4,500) B¥6,000(U25¥3,000) C¥4,000(U25¥2,000)
◼️お問合せ/愛知県芸術劇場 TEL.052-971-5609
※4歳以下入場不可※U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)
※託児サービスあり(対象:万1歳以上の未就学児・有料・要予約)
※やむを得ない事情により内容、出演者が変更になる場合があります
※6/28(土)公演のS席は学校団体鑑賞が入るため販売がありません