HOME > MEGLOG【編集日記】 > <公演直前レポート>音楽の翼で未来を紡ぐ WANDERLUSTコンサートツアー

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心を揺さぶる音楽体験、未来を変える力に。

「音楽は分かち合うことにより、更に価値あるものとなる」 ―――― ドイツの至宝と呼び声高いバリトン歌手ベンヤミン・アップル、ROLEXのアンバサダーでもあるメキシコ人ピアニストのジョルジュ・ヴィラドムスが、メキシコからスタートさせた音楽の旅。彼らと確かなる思いで繋がったアジアの若いアーティストも加わり、ブラームスをはじめ宝石のような美しい音楽を届けます。

このツアーは単なる音楽イベントではありません。困難な環境にある子供たちの未来を拓くという特別なプロジェクト。こども家庭庁を通じ、学習体験の機会に恵まれない子供たちの無料招待枠を設け、チケットを購入しコンサートに足を運ぶことで社会貢献ができる仕組みになっています。

プロジェクトに加わったアジアのアーティスト、ヴァイオリニストの石上真由子、クラリネッティストの兒嶋賀奈子、そして作曲家キム・ジェドクの三人に、「WANDERLUST」コンサートツアーについて話を聞くことができました。

―まず、ドイツ歌曲界のスター、ベンヤミン・アップルが歌うドイツリートを聴くことができるというだけでも注目ですが、さらに多方面で活躍するジョルジュ・ヴィラドムス、そして皆さんが加わり、一層華やかさを増していますね。
子どもたち参加型のコンサートプロジェクトというのは今までになかった試みではないでしょうか。

兒嶋賀奈子:もちろん先ずはベンヤミンの歌声を軸にピアノ、ヴァイオリン、クラリネットが紡ぎだす美しいプログラムを楽しんでいただきたいです。通常のコンサートとの違いは、お客様はチケットを購入することで体験が乏しい環境にある子どもたちへの支援を、合唱で参加する子ども、生徒たちはただ舞台で歌うだけでなく貧困について考える機会を、招待した子どもたちにとってはクラシックのコンサートとに行ってみた、という経験を。音楽を聴いた、というだけでなく目には見えないお土産付きのコンサートです。企画したきっかけは私がローザンヌ高等音楽院で出会ったピアノ教授のジョルジュが「音楽は人々と分かち合うことでより価値あるものとなる」という信念からスイスとメキシコに設立した財団「Crescendo Con La Musica」の活動です。それぞれ支援内容は違いますが、メキシコでは既に2校を設立、困難な環境にある子どもたち、4000人以上が今までに学んでいます。その活動をお手伝いしたことから私も日本で音楽を分かち合うという価値観を広めたいと思いました。

―皆さんがこのプロジェクトに参加した動機を教えてください。

兒嶋賀奈子:祖母が国際的に奉仕活動をしているゾンタクラブに所属をしているためチャリティーが身近にあったこともありますが、両親から「食事に困らず、お勉強ができる、それは当たり前ではなく、たまたま生まれたところがラッキーだっただけ」と言われて育ちました。でも、私はその幸運を自分の努力の結果だと勘違いしていた時期があり、ローザンヌ高等音楽院で才能溢れる仲間に刺激を受けつつも圧倒され、前向きな気持ちになれない時期がありました。その頃にジョルジュの財団の活動をお手伝いし、体験格差や貧困問題に対して取り組む責任を感じるようになりました。

石上真由子:そもそも国も両親も選べずに生まれるわけですから、人生のほとんどは運ですよね。色々な体験をしてこそ、自分は何が好きで、何が苦手なのかを把握できるはずが、その機会が乏しいと学びたいという意欲や好奇心を育むことも難しくなります。賀奈子ちゃんから、ジョルジュの単なる音楽人の育成ではなく、音楽を通した包括的教育の活動を聞き、そこから日本の体験格差、教育格差に目を向けて芸術体験をフックに支援活動をスタートさせようとしている彼女の気持ちに賛同し一緒にやろう、となりました。もちろんベンヤミン、ジョルジュというスター二人との共演、編曲を担当する若き俊英、キム・ジェドクさんの参加も楽しみです。

キム・ジェドク:現在はドイツに暮らしているのですが、ジュネーブ高等音楽院に在籍していた時に友人になった賀奈子から今回のプロジェクトに編曲で参加しないかと誘われました。コンサートの全体的なアイデアを彼女から聞き、企画書を読み、ビジョンと目的が自分の価値観と共鳴すること、実は私自身も貧困にある人々へのボランティア活動をしていたこともあり、今回も自分のスキルが貢献できることから参加を決めました。


バリトン ベンヤミン・アップル


―来日されるベンヤミン・アップルさんについても教えてください。

石上真由子:ベンヤミンはあのドイツ歌曲の大スター、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの愛弟子です。彼自身もレーゲンスブルグ大聖堂少年合唱団からキャリアをスタートしています。

キム・ジェドク:ベンヤミン自身がクワイアの経験があるので、小学生、高校生たちが合唱で参加するモーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』は、編曲しながら本番を楽しく想像しています。

―ジョルジュさんについても詳しく教えてください。

兒嶋賀奈子:彼はローザンヌ高等音楽院の教授であり、Crescendo Con La Musica財団の創設者でもあります。ロレックスのアンバサダーとしても活躍し、なんとVOGUEの表紙を飾ったことも。スイスではこれまでに60以上の奨学金を音楽学生に授与しています。

―それは本当に素晴らしい活動ですね。ところで、今回は子どもたちを招待されていますが、プログラムそのものは王道という印象です。

キム・ジェドク:子どもたちを招待し、また合唱に参加もしてもらうのですが、内容を子ども向けにする必要はないと考えました。

石上真由子:ドイツリートの世界観がメインのプログラムになります。シューベルト、シューマンにブラームス、まさに王道が並びます。「あ、どこかで聴いたことあるな」という曲も多く、歌詞もあるので、普段クラシックのコンサートにあまり行かない方や子どもたちにも親しみやすいと思いますし、ハイネの詩が好き、という方にも足を運んでいただきたいですね。

兒嶋賀奈子:個人的には高校生のころから憧れていた真由子さんとの共演も楽しみです。合唱で参加してくれる小学生、高校生たちにはベンヤミンと共に歌ったという経験は一生の宝物になるでしょう。もしかしたら将来そこから日本を代表する声楽家が生まれることがあるなら、アーティスト冥利に尽きます。

キム・ジェドク:ユニークな編成ですが、バリトンとクラリネットは響きの相性が良く、弦楽器とクラリネットの相性の良さは言うまでもないので楽しみにしていただきたいです。

―キム・ジェドクさん、韓国でも子どもの教育格差や体験格差は社会問題として認識されているのでしょうか?

キム・ジェドク:はい、韓国でも子どもの教育格差、体験格差は大きな社会問題です。大学時代にホームレスや社会的弱者の人々のために音楽を提供する活動に参加していたときに痛感しました。数年間その支援活動を継続することでコミュニティとしての連帯感のようなものが生まれたことは、自分でも意外なほど大きな喜びとなりました。今回招待したアートにアクセスすることが難しい環境の子どもたちには、まず何よりも楽しんでもらいたい。そして、コンサートに参加してくれる学習環境に恵まれている側の子どもや学生さんたちには、ぜひ、自分たちがこれから担う社会における責任のようなものを感じ取ってもらえればと思います。


ピアノ ジョルジュ・ヴィラドムス


―参加される子どもたちについても教えていただけますか?

兒嶋賀奈子:アートにアクセスしてもらいたいと子ども達を招待するだけでなく、もう一歩進んだ取り組みにも挑んでみました。従来の演奏家と聴衆という構図から、子供たちや学生たちと一緒にコンサートを作り上げるという試みです。恵まれていると見過ごしてしまう格差に対し、自分たちは何ができるのかを考えてもらう機会にもなります。その私たちの取り組みに国立音楽大学附属高校が参加を快諾してくださったことにも感謝していますし、立命館小学校からはただ参加するだけでなく、子どもたちに深く見えない貧困について考える機会にしたいと色々ご提案いただいたことも嬉しかったです。慶応大学の有志の学生さんが裏方に入ってくださっているのも胸が熱くなります。

石上真由子:クラシック音楽の課題として客層の高齢化があります。自分たちの未来のお客様を自分たちで開拓していくという意味でも、子どもたちや学生たちに聴いてもらう、参加してもらうことに積極的でありたいです。このままクラシック音楽がオワコンになってしまったら、子どもたちに支援をするどころか、音楽家は自分たちが職を失っていくことになりかねないので。

キム・ジェドク:スイスの筆記具ブランド カラン・ダッシュが音楽家の我々とはまた異なる視点からの協力をしてくださっているのもこのコンサートのユニークなところです。最近は自宅で楽しめるコンテンツが沢山あり、わざわざお金を払ってコンサートに出向くというハードルはますます高くなってきています。おそらくクラシックのコンサートは今回が初めてという子どもたちが多いでしょうから、今後も行きたい、聴きたいと思ってもらうためにも責任はなかなか重大です。

兒嶋賀奈子:クラシックコンサートの高齢化と言えば、母はコンサートから帰ってくる度に「いつもクラシックのコンサートに行くと自分が若いような錯覚をしてしまうのよね。もっと若いお客様が増えないと困るわね」と必ずのように口にします。音楽的な感想よりそっち?って(苦笑)。

キム・ジェドク:若い世代は出かけなくても十分に娯楽がある社会で育ってきているので音楽を提供する側の意識変革も求められていると感じています。一人では叶えられない何かを提供できるように私たちも知恵を絞っていくことが必要と考えています。

―皆さん、ありがとうございました。コンサートの成功をお祈りしています。

取材:松井陽子


ヴァイオリン 石上真由子


クラリネット 兒嶋賀奈子


編曲 キム・ジェドク


WANDERLUST 公演情報
【出演者】
•バリトン: ベンヤミン・アップル
ドイツ歌曲史上に燦然と輝くディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの愛弟子。低音から高音までを印象的な柔らかい響きで歌い上げ、今最も聴くべきアーティストとして高く評価されている。昨年11月にも来日し、そのリサイタルはNHKに収録され放送された。

•ピアノ: ジョルジュ・ヴィラドムス
ローザンヌ高等音楽院教授。クレッシェンド・コン・ラ・ムジカの創設者。ロレックスのアンバサダーとしても活躍。

•ヴァイオリン: 石上真由子
日本音楽コンクール等、内外で多数受賞。国内外でオーケストラとの共演を重ね、メディア出演も多数。ソリストとしてだけでなく、室内楽にも力を入れている。ENSEMBLE AMOIBE主宰

•クラリネット: 兒嶋賀奈子
14歳からクラリネットを吉田誠に手ほどきを受け、東京音楽大学付属高校で松本健司に師事。ローザンヌ高等音楽院でフローラン・エオーとパスカル・モラゲスのもとで研鑽を積む。数々のコンクールで入賞。

•編曲: キム・ジェドク
ヨーロッパで活躍する現代音楽作曲家。今年(2024年)、パリのイルカム・マニフェストやビエンナーレ・ヴェネツィアにて世界初演を予定。彼の作品はヨーロッパの名門アンサンブルやオーケストラによって演奏されている。

賛助出演: 国立音楽大学附属高等学校 立命館小学校合唱部 立命館小学校コールリッツ
後援: 在日スイス大使館  在日メキシコ大使館  しがぎん経済文化センター

<主催者からのコメント>
コンサートツアー「WANDERLUST」は音楽を通じて社会貢献に興味のある方には、ぜひご参加いただきたいイベントです。チケットは公式ウェブサイトから購入可能で、皆様のチケット代には、こども家庭庁を通じて無料招待した子ども達の分のチケット代が含まれています。
一流のアーティストと一緒に音楽の力を体験し、多くの子供たちに希望を届ける手助けをしませんか?このコンサートは、音楽の美しさとその社会的な力を感じる絶好の機会です。皆様のご来場を心よりお待ちしております。

【東京公演】
■7月30日(火)開演/19:00
■会場/浜離宮朝日ホール
【京都公演】
■8月3日(土)開演/16:00
■会場/ロームシアター京都サウスホール
■料金(税込)/全席指定 各 8,800円 

チケットおよび公演の詳細はコチラ→https://kotetto.com/