HOME > MEGLOG【編集日記】 > <公演直前レポート!>午後の特等席 vol.8 藤木大地 記者懇談会

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オペラにリサイタル、歌唱付き管弦楽作品のソリストとして引く手数多、聴衆を魅了し続けているカウンターテナー藤木大地が、住友生命いずみホールで初のソロリサイタルを行う。「いずみホールは憧れのコンサートホール。ここでリサイタルを行うのが夢だったんです!」と熱く語る藤木大地。元々はテノールとして歌手人生のスタートを切ったが、行き詰まりを感じ、歌手を辞めて制作の現場に回る事も考えて、ウィーンで文化経営学も修めたという。たまたま風邪をひいたことがきっかけで、裏声の歌唱に可能性を見出し2011年にカウンターテナーへ転向。翌年には日本音楽コンクールで史上初のカウンターテナーとして1位を獲得。2013年にはボローニャ歌劇場にてヨーロッパデビュー。2017年にはウィーン国立歌劇場デビューを果たし、現在の大活躍に至っている。多忙を極める藤木大地に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。



――藤木さんにとって、いずみホールは特別なコンサートホールだそうですね。

2014年にオーケストラアンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサートのソリストとして、初めていずみホールのステージに上がりました。2012年に日本音楽コンクールで優勝したことを受けて、OEKの音楽監督だった井上道義さんから「他のやつらとやる前に、まず俺とやろう!」と声を掛けて頂いたのです。舞台から見ると客席が丸く、包み込んでくれるような形をしていて、ちょうど良い大きさです。音響も素晴らしく、僕はホールの色も気に入っています。実は宮崎県の高校生の時に、毎日新聞主催の全日本学生音楽コンクール声楽部門を受けていて、地区大会を勝ち上がれば決勝はいずみホールで歌えたのですが、残念ながら決勝に勝ち上がることはありませんでした。それだけに初めてステージに立てた時は嬉しかったです。

――いずみホール主催のオペラでは2度ステージに立たれていますね。

はい、2015年にモーツァルト「魔笛」で、2019年にはモンテヴェルディ「ホッペアの戴冠」でキャストとして出演させて頂きました。嬉しかったのですが、やはりリサイタルをやりたい気持ちがより強くなりました。昨年(2023年)の「びわ湖の春 音楽祭」のリサイタルを、ホールの方に聴いていただいたのがきっかけになったのでしょうか、今回のリサイタルが決まりました。

――今回の「午後の特等席」は、どのようなコンサートでしょうか。

平日の午後に音楽を楽しむコンサートとして、住友生命いずみホールさんがとても大切にされているシリーズとお聞きしています。夜出かけるのは難しいというシニアの方が増えたようで、その中には昼間のライトなコンサートではちょっと物足りないという方もいらっしゃるそうです。そういう方に満足していただけるプログラムを作って欲しいと依頼されました。ただ、2、3曲は誰もが知っている曲も入れて欲しいという難易度の高いリクエスト。悩んだ末に、ご覧のプログラムに決まりました。通常、プログラムを考える場合、前半と後半に割って考えることが多いです。今回だと、後半は委嘱作品で固めようと思いました。昨年亡くなられた いずみシンフォニエッタ大阪 音楽監督の西村朗先生に書いていただいた曲を歌えるのが嬉しいです。

――西村さんに委嘱された『木立をめぐる不思議』という曲ですね。

歌手人生の中で初めて委嘱した作品です。東京オペラシティリサイタルホールで「B→C」のコンサートに出演させて頂いた時(2015年9月)に、西村先生にお願いしました。出版されていないので、これまで僕しか歌っていない12分ほどの曲です。大阪では2019年に、ザ・フェニックスホールで歌っています。その時のピアニストも今回と同じ松本和将さんです。初演のリハーサルには西村先生も立ち会って頂きました。
最後に歌う連作歌曲『名もなき祈り』は、2019年の「東京春祭」歌曲シリーズ のために加藤昌則さんに委嘱をした全6曲構成の作品で、詞は全て違う方が書いています。作者不詳の「Indian Prayer」から始まり、ラテン語の祈祷文「Sancta Maria」そして、たかはしけいすけさんの「空に」、サラ・オレインさんの「Pray Not, Amen」、宮本益光さんの「今、歌をうたうのは」という作品を経て、最後にエピローグという形で1曲目が戻って来ます。全体で20分ほどの祈りの曲ですが、1曲ずつでも演奏可能。関西では2020年にびわ湖ホールで全曲を歌いましたが、大阪で歌うのはこれが初めてとなります。



――前半のプログラムはバラエティに富んでいます。

後半に皆さんがあまりご存知の無い委嘱作品を演奏するので、前半は有名な作曲家の作品を1曲ずつ選びました。1曲目はモーツァルトの合唱曲から「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。この曲だけがラテン語なので、最初に歌います。誰もが知っている曲をとのリクエストに応える形で、シューベルトの歌曲「魔王」とメンデルスゾーンの「歌の翼に」を選びました。前半最後のシューマンの「女の愛と生涯」は昨年、浜離宮朝日ホールと名古屋のHITOMIホールで全曲歌い、またやりたいと感じたので、大阪のお客さまにもお聴きいただこうと思い今回取り上げます。

――委嘱作品は、藤木さんの為に作曲家が当て書きされます。生きている作曲家との曲作りが、シューベルトやシューマンの作品を勉強する時に役立つことなどありますか。

僕は、生きている作曲家と一緒に曲作りをするのが好きです。例えば、譜面にフォルテと書いてあるところを「ここはピアノで歌ったらどうでしょうか? 」とご本人に言って歌ってみると、意外にそっちの方が良いね、ということがよくあります。となると、シューベルトやシューマンでも同じことが言え、必ずしも譜面に書いてあることが絶対だと思い過ぎないように心掛けています。そんなことを、生きている作曲家との作業は僕に教えてくれます。

――ピアニストの松本和将さんのことを教えてください。

松本さんはドイツで学ばれドイツ語を理解されます。彼とやるとなれば今回のようにドイツ語の作品が多くなりますが、松本さんはそれだけでなく、僕の節目となる公演では決まってピアノを弾いていただく信頼するピアニストです。西村先生の『木立をめぐる不思議』の初演もそうでした。ですのでいずみホールのコンサートは、やはり松本さんにお願いをしました。



――以前からカウンターテナーは喉の負担が多く、いつまでも歌えるとは思っていないと仰っています。もしもカウンターテナーとしての歌唱が厳しくなった時は、以前のようにテナーとして歌い続けられますか。

僕は今、思い通りに声をコントロールできるので歌うことが楽しいのですが、声が出なくなると、きっと歌いたくなくなると思います。元々テノールで思い通りの表現が出来なかったのでカウンターテナーへ転向した訳で、またテノールへ戻って歌い続けていくとは思えません。

――カウンターテナーとしては今がピークなのか、まだまだ進行形でピークは先なのか、藤木大地の現在地はどこでしょうか。

昔から知っているアメリカのコーチに最近の歌を聴いて貰った所、まだまだ上手くなっていると言われました。自分でも自由に声をコントロール出来ているように思うので、多くの皆様に現在の僕の歌をお届けしたいと思っています。

――ウィーン国立歌劇場での活躍は記憶に新しいところですが、メトロポリタン歌劇場や、ミラノスカラ座といった所へ挑戦する気持はお持ちでしょうか。

一度の人生なので、スカラ座やメトで行われていることを、ソリストとして身を持って体験したいとは思います。どんな時も実力を磨いて、いつか来るかもしれないチャンスを掴めるようにしようと心掛けています。

――最後にメッセージをお願いします。 
  
結構悩んで考えた結果、とても素敵なプログラムを、素晴らしい住友生命いずみホールでお届けできることになりました。ぜひ初夏の午後のひと時を、ご一緒しませんか。劇場でお会いしましょう。

取材・文 磯島浩彰


午後の特等席 vol.8 藤木大地
日時:7月2日(火) 開演:14:00
出演者:藤木大地(カウンターテナー)
    松本和将(ピアノ)
料金:一般 ¥5,000、U-30 ¥2,000

◆演奏曲目
W.A.モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
F.シューベルト:魔王 D328
F.メンデルスゾーン:歌の翼に op.34-2
R.シューマン:連作歌曲《女の愛と生涯》
西村朗:木立をめぐる不思議 /藤木大地委嘱作品(2015)
加藤昌則:連作歌曲「名もなき祈り」/藤木大地委嘱作品(2019)

◆チケット料金+¥3,000で
〈アフタヌーンティープラン〉あり ※数量限定

お問合わせ:住友生命いずみホールチケットセンター 06-6944-1188
公演詳細ホールHP↓
https://www.izumihall.jp/schedule/20240702