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2023年08月31日 <会見レポート! 森達也監督による初の劇映画「福田村事件」が9/1(金)より公開!>
オウム真理教の信者たちを追った「A」「A2」や、東京新聞社会部の望月記者を追ったドキュメンタリー「i 〜新聞記者ドキュメント〜」などで知られる森達也監督。その最新作は、実話に基づいた劇映画「福田村事件」だ。集団心理が引き起こした狂気を、人々の個を丁寧に描きながら豊かで深いドラマに仕上げている。名古屋・伏見ミリオン座で行われた森監督の会見をレポートする。
物語は今からちょうど100年前の出来事。第一次世界大戦後、日本は大不況となり、米騒動からシベリア出兵や韓国での3.1独立運動と不穏な時代となっていた。そこにスペイン風邪が猛威を振るい、人々の不安、不満は頂点に達しようとしていた。さらにマスコミは、政府の失政の矛先を社会主義者や朝鮮人の排除へと世論を煽るようになる。そこへとどめを刺すように関東大震災が発生。不安と恐怖は「朝鮮人が略奪や放火をしている」というデマを生み出し、千葉県・福田村での惨劇が起きてしまう。
この劇映画で描きたかったことについて森監督は「やっぱり僕にとっての原点は、オウム真理教のドキュメンタリーなんです。その時に、施設に入った時に信者たちがみんな本当に善良で穏やかで純真でびっくりしたんです。でも同時に、彼らも指示が下ればおそらくサリンを撒いていたと思うのですが、これって何なんだろうと。メディアはとにかく邪悪で凶暴な集団だという伝え方しかしない。このギャップは何かなとずっと考えていて、ポーランドのアウシュビッツやカンボジアのキリングフィールド、虐殺の現場を歩いてみたんです。そこでもやはり同じ。つまり、個々の加害側が本当に凶暴で冷徹だったかというと、そんなはずはない。一人ひとりは父であり、誰かの息子であるわけです。それが何故か凶暴になってしまう。原因は「集団」です。人は集団になったときに1人じゃできないことができてしまう。集団に主語を預けてしまったときにとんでもない失敗をする。何も昔のだけの話ではなくて現代でも世界中で起こっていることで、それは人類の1つの宿痾(しゅくあ)とでも言えばいいのか。だから防ぐことなかなか難しいけど、歴史を知れば多分同じ過ちは犯さないはずだと思うんです。でも、この国は今、負の歴史を自虐史観だと言って、軽視どころかもうなかったようにする傾向がある。それは駄目だろうという思いがあり、この事件をモチーフにしたの理由はそこにあります。」
題材からみても社会的メッセージが強く感じられる作品だが、ドラマとしてとても面白く見応えのある内容となっているのは強調しておきたい。キャストは井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明など実力派・個性派が揃い踏みとなっている。それぞれの個の人間性、事情、そこから生まれる大小のドラマが丁寧に描かれている。
「絶対に必要だなと思ったのは、加害者側。つまり福田村の住人たちの日常や喜怒哀楽をしっかりと描かないといけないということ。いきなり虐殺だけで映画にしてたらもうモンスターですよ。そうじゃないんだっていうことが一番言いたいので。ある条件が整えば普通の人でもこういうことをやっちゃうんだと。そのためにはできる限りの村の生活みたいなものはしっかり描こうという、これは脚本部とも共有する認識でした。」と森監督。
役者陣のこの映画に賭ける意気込みも、相当強かったと思わせるエピソードも。
森監督「俳優の皆さんが撮影地の京都に来る前に、野田市にある事件の慰霊碑に行って手を合わせてきたらしくて。そんなことはこちらからは全然要求していなかったし、その話も後から聞いて。だから、しっかり下調べもして臨んでくれたんです。あれだけ力量がある俳優が集まって、さらにそういう役作りをしてくれたら、それはもう完璧なものになりますよね。現場で僕がどうこう言う前に色々やってくれて、とても頼もしい存在でしたね。」
そしてこの時代は、まだまだ圧倒的に男性優位の時代。その中で物語は、女性の立場とともに女性の視点、言葉をしっかりと描いている。それがよりドラマティックな展開、叙情的なシーンを数多く作り出したとも言える。そしてテーマとなる「集団心理」にも、女性の持つ本能が見え隠れする。
森監督「この映画は女性をちゃんと描こうというのもありました。虐殺や戦争は男のものじゃないですか。女性はもう少し地に足が付いてるし、そういう時に抑止力にもなる存在だと僕は思っているので、そういう女性をしっかり描きたいと思って。でも史実を調べると、虐殺を引き起こす福田村の自警団には女性も結構いたらしいんです。多分それは子どもを守るという母性だと思うんです。みんな本当に怯えて「朝鮮人が来たら何されるか分かんない」みたいな心理状態。そうすると「じゃあ、私もしょうがない。竹槍持って行くか」となるんでしょう。それにしてもやはり男とはちょっと違う。そういうところはしっかり描きたいと思いました。」
物語のクライマックス、虐殺に至る経緯はこうだ。
日本統治下の朝鮮で教師をしていた澤田智一(井浦新)は、妻の静子(田中麗奈)を連れ、故郷の福田村に帰ってきた。同じ頃、沼部新助(永山瑛太)率いる薬売りの行商団は、関東地方へ向かうため四国の讃岐を出発する。9月1日、関東大震災が発生。そんな中、東京ではデマが飛び交い、瞬く間にそれは関東近縁の町や村に伝わっていった。2日、東京府下に施行された戒厳令は4日には福田村がある千葉にも拡大、多くの人々は大混乱に陥った。福田村にも避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、人々は恐怖に浮足立つ。そして9月6日、行商団たちは福田村を訪れる。偶然と不安、恐怖が折り重なり、後に歴史に葬られてしまう大事件が起きる。
絶望的なクライマックスを迎え、途方に暮れる。人は歴史から学べないのか。ただ森監督は、そうではない、人間は学び変わっていけると言う。
森監督「なぜ群れるかというと弱いからなんです。不安と恐怖というのが一番この集団化を促進する大きな要素になる。これはもう昔からずっと繰り返して世界中でも起きていることだし、ただ、やっぱり知れば多少は変わりますよ。一番いい例を挙げれば、今のドイツかな。例えば、ウクライナに戦車を供与する時に、すごい国内で議論があったんですよね。ナチスという府の歴史を持ったドイツが随分変化しているわけです。それはやはり、彼らはなぜ自分たちはあの政党を支持したのかというのをずっと考えているからです。それは映画に置き換えても同じことが言えて。ナチスとかホロコーストの映画は世界中で作られている。アメリカでは黒人差別や暴動、ネイティブアメリカンへの虐殺をテーマにした映画もたくさん作られています。韓国でも光州事件をテーマにしたり。自分たちの負の歴史をエンタメという形にしながら、しっかりとみんなで記憶する。何も変わってないじゃんって言いたくなるけど、実は変わっているんです。その良くなる傾向を加速するうえでも、やっぱり歴史を知ることは大事だと思います。」
劇場公開は関東大震災から100年にあたる9月1日(金)より全国公開。お見逃しなく!
◎Interview&Text/福村明弘
9/1 FRIDAY 〜名古屋・シネマスコーレ ほかにて上映
映画『福田村事件』
(2023年製作/137分/日本)
監督:森達也
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明 ほか
企画:荒井晴彦 脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦 音楽:鈴木慶一
統括プロデューサー:小林三四郎 プロデューサー:井上淳一、片嶋一貴
配給:太秦 製作:「福田村事件」プロジェクト
公式サイト https://www.fukudamura1923.jp
©「福田村事件」プロジェクト2023